家庭科室にて 8
「話を聞こうではないの」
涼香がテーブルにバンっと手を着くと、ここねが親子丼を奏の目の前に置いた。
予算に加え、揚げ物調理は後片付けが大変だということで、カツ丼ではなく親子丼になった。
まるで取り調べを受けているかのような奏である。
そうやって詰められている奏の様子を、音は一瞥する。
やっぱり自分がなにかしてしまったのだろうかと、聞きたいが怖くて口が動かない。
奏の視線は親子丼と音の間を行き来する。
「音ちゃんの分もあるよ」
そう言ってここねが音の前にも親子丼を置く。
「話をしようにも、お腹が空いていればまともに話せないわよ」
お腹が空いていれば気分も落ち込んでしまう。一度腹を満たし、落ち着いて会話に臨むのがいいだろうと、涼香はまともなことを言う。
涼香の言葉を受け、音と奏の二人は親子丼を食べ始める。
二人が食べている間、涼香はここねを連れて家庭科室から出て行く。
「涼香ちゃん……」
家庭科室から出たここねは、ドアを閉める涼香を見上げる。
「まともすぎてちょっと怖いかも……」
「普段の私がまともではないと言いたいの?」
「うん」
「涼音が可愛いのがいけないのよ」
「関係無いと思うなぁ」
「仕方ないわね。あなたに涼音の可愛さを教えてあげようではないの」
「それはまた今度でいいかな」
やんわりと断り、ここねは家庭科室に目を戻す。
「大丈夫かな?」
「大丈夫よ。ここねの親子丼は美味しいわ」
「そっちじゃないんだけど……」
音と奏の間になにがあった。でも音も奏も誕生日は近くないし、パッと思いつく理由が無いのだ。
涼香も分からないから、二人に直接話をしろと半ば強引な話し合う機会を設けたのだ。
「ご飯はいいわよ。お腹が満たされれば気分も変わるでしょうし」
「そうだね」
「ただ――」
「ただ?」
「待っている間暇なのよ」
「確かに。他の部活にお邪魔する?」
「そうしましょうか。暑いから室内がいいわね、水槽楽部にでも行きましょう」
「涼香ちゃんは出禁だよ?」
「今日の私はひと味違うのよ」
「関係無いと思う」
そんなやり取りをしながら、涼香とここねはしばらくの間家庭科室から離れるのだった。




