家庭科室にて 6
ある日の放課後の家庭科室。
いつもなら菜々美がいるが、今日はバイトがあるらしい。それに涼香も涼音もいない。
久しぶりに一人かと思ったが、今日も客が来ていた。
「音ちゃんが来たってことは、なにか相談があるの?」
今日家庭科室へやって来た生徒である時雨音は、あまり目立つタイプでは無い、大人しい生徒だ。いつも教室の隅で一人で本を読んでいる音には、加賀野奏という彼女がいる。ここねに会いに来たということは、その相談なのだろう。
「奏の……奏の、こと、怒らせたかもしれなくて」
「ええ⁉」
音はこの世の終わりだという表情で言う。音は教室の隅にいる生徒だが、別に暗いということではなく、それは周りに興味が無いから。なんなら自分の容姿にも無頓着。
涼香がいればそれでいいと考えている節のある涼音のようなタイプだ。
ガックリと項垂れる音の髪の毛を見てここねは気付く。
美容師を目指す奏が彼女だからか、音の髪型は毎朝綺麗にセットされているのだが、今の音の髪型は寝癖が立ち、ボサボサでなにも手を加えられていないのだ。
「髪の毛……触ってくれない……」
「それは大変だよ! どうしてっ……が解らないから来たんだよね?」
普段から仲の良い二人を見ているここねにとって、二人が喧嘩をするなんて想像できない。
なにがあったのか。音にもそれが解らないのだろう。
「心当たり無い……やっぱり私が悪いんだよね……」
これはフォローをしてあげなければ、どこまでも沈んでいきそうだと判断したここねは、力強くテーブルを叩いて立ち上がる。
「大丈夫だよ‼ 奏ちゃんが音ちゃんのこと嫌いになるはずがないから!」
「嫌いになったって言わないでよぉ。芹澤は柏木と喧嘩したことないからそんなこと言えるんだよ……!」
「えぇ……」
じゃあなんで相談しに来たの……? という言葉をグッと飲み込んだここねである。




