異界にて 5
入れ替わってしまった菜々美とここねだが、それ以上に大騒ぎすることは無かった。どちらかというと、入れ替わったことで恥ずかしそうだった。
「どう呼べばいいのか、ややこしいわね」
そう言うのは涼香である。
菜々美がここねに、ここねが菜々美に、どっちをどう扱うかを決めたい様子だ。
「それは単純に中身でよくない……?」
「そうなりますよね……」
千春の意見に涼音が頷く。
そうは言ったが、どうするのか決めるのは入れ替わった本人達だ。
涼香はどうするのかと、入れ替わった二人に目を向ける。
「中身でいいと思うわよ」
「ここねの格好でその口調ってなんか可愛いね」
「ここねは可愛いの‼」
千春の茶化しに菜々美(姿はここね)は断言する。
「わたしも、それでいいと思う」
「なんか変な感じしますね」
菜々美とここねの同意を得られたということで、中身で呼ぶことになった。
「次は、二人が入れ替わったのはここが異界だから? それとも、ここが異界かどうか関係無く、ぶつかったから入れ替わったのか。それによってここから先のやることは変わるわよ」
「涼香の発言に知性を感じる……」
「まだ学力残量は結構残ってますから……」
次に解決すべき問題は、入れ替わった二人は元に戻るのかどうかということだ。
とりあえずこの異界を出るために動くか、二人を元に戻すために動くのか、それを決めなければならない。
「うーん……、異界を出れば戻るんだったらいいけど、入れ替わったのは初めてだから分からないなあ」
そう言うここね(姿は菜々美)から、菜々美(姿はここね)以外の三人はそっと目を逸らす。
「なによその反応。私に? ここねに? 失礼じゃないかしら?」
「周囲を警戒しただけよ」
「ほら、私異界って初めてだから」
「先輩どうしたのかなーって」
菜々美に詰め寄られるが、三人は適当に誤魔化す。
見た目は菜々美なのに、中身はここね。動きがここねのように小動物みたいでいちいち可愛いのだが、見た目が小動物的な可愛さを持っていない菜々美のため、なんかちょっと……となってしまうのだ。
「とりあえず、陰陽部を叩いてから決めるのがいいんじゃないかな!」
ここねが両手の平を合わせ笑顔で言う。
いつものここねなら、発言の不穏さはさておき可愛い仕草なのだが、菜々美の姿だと見慣れない。
三人はまた目を逸らし、菜々美自身も恥ずかしくなってきた。
恐らくわざとやっているここねである。




