異界にて
「あれ、先輩リュック忘れてますよ? もー、なんでいつもそんなに忘れるんですかね。早く取りに戻りますよ」
「現実から目を背けない」
「帰りたいよぉ……」
そんな可愛い涼音の姿を撮ろうとして、スマホが無いことに気づいた涼香。
「可愛いわね涼音、いつもいつも。ところでスマホ貸してくれないかしら?」
「やです」
肩をすくめる涼香。別に取りに戻ろうという気は無い。可愛い涼音の写真を撮れなくなるが、それ以外の理由はまあ必要無い。
いやいやする涼音をなんとか連れ、存在しない教室がある場所へと向かう。教室の場所は覚えている。ただ、なんの教室かは確認できていない。
「おかしいのよね……」
その言葉を聞いた涼音が、慌てて耳を塞ぐがそれを涼香は阻止する。
「あーーーーーーーーーーーーー‼」
「記憶があやふやなのよ」
教室の場所は分かるが、その記憶が確かなものであるという保証は無い。
一応、学校のどこにどの教室があるのかは覚えている涼香。だからその存在しない教室の場所は、なんの教室か分かるはずなのだ。
これには一つ、心当たりがある。
「変な儀式をして、学校ごと異界に迷い込んだのかしら?」
「あーーーーーーーーーーーーーー‼」
「黄昏は誰そ彼、逢魔時……」
「先輩がおがじぐなっだ……」
「あら、聞こえてたの?」
再び歩みを再開させて、涼香は涼音を引きずる。
「心霊系では無いと思うわよ」
「安心しましたけど、それでも怖いんですよぉ」
へっぴり腰の涼音はなんとか自分で歩く。心霊要素が薄れてきたため、なんとか動けるといった様子だ。
「先輩……どうやれば戻れるんですか……?」
「まずは本当にそうなっているのか確認しないといけないわね」
本当に異界に迷い込んだのかどうか、一度存在しないはず教室を確認しなければならない。それ以外にも確認できることはあり、薄々解っているのだが、ここまで来れば確認しておきたい。
そして存在しない教室までやって来た涼香と涼音。
教室の名前は『理科室』と書かれている。
「理科室ね」
涼香は理科室の扉を、いつも通りバンっと開ける。
「変わっていないわ‼」
恐る恐る中を覗き込んだ涼音も、その光景に安心したような怖いような、なんとも言えない気持ちになる。
「……存在しましたね」
「ということで、そういうことね。さて、とりあえず戻りましょうか」




