家庭科室にて 4
「「「存在しない教室?」」」
涼香と菜々美、そして白々しくもここねが反応を返す。
「先輩……もう帰りましょう……てかもう学校来たくない……」
泣きべそをかきながら、涼音は涼香の腕を引っ張る。
心霊系が苦手な涼音はいち早く帰りたいのだ。
そんな涼音の感情は伝わっているのだが、涼香はなぜか渋る。
「学校には来なさい」
「あ、そこなんだ」
そう言った菜々美は、現在時刻を確認する。
まだ最終下校時刻には時間はある。自分達もそろそろ帰ろうかと思ってここねを見ると、ここねと目が合う。
にっこりと笑いかけてくれるここねに心を洗われた菜々美である。
そうやって二人が甘い空気を醸し出しているすぐ側では――。
「涼音、お姉ちゃんに良い案があるの」
「誰がお姉ちゃんですか。絶対良くない案ですよね!」
「良い案よ。聞きなさい」
「あー! あー‼ 聞こえませーん‼」
耳を塞ぐ涼音の手を涼香が引っペがそうとしていた。
「なによ、良い案って」
このままでは涼音が可哀想だなと、なんとなく思った菜々美は、代わりに涼香の言う、良い案とはどういう案なのかを聞くことにした。
涼香は涼音を襲うのを止め、涼音の頭を撫でながら答える。
「存在しない教室とやらが本当にあるのか、確認すればいいのよ」
存在しない教室が怖いのなら、存在しない教室なんてあるのか無いのか、もう一度行って確認すればいいのだ。
「でもそれが無かったら、私も怖いんだけど」
それであの教室があればいいのだが、もし無ければ、正真正銘、存在しない教室になる。
「信じなさい、この学校の異常なまでの部活動の多さを」
しかし涼香は、その教室は必ず見つかると言いたげだった。
涼香達の通っている女子校は、なぜか部活動が多い。主に涼香の学年で増えたし、増えた理由は涼香にあるのだが、涼香はそれを知らない。
その数多くの部活動の一つや二つ、存在しない教室を作ることだってできるだろうし、あのなんかよく分からないホルマリン漬けみたいなのも用意できるだろう。
「確かに……そうね」
「なら決まりよ。涼音、行くわよ‼」
「あー‼ あー‼ あー‼」
涼音を連れ、早速行こうとする涼香と抵抗する涼音。
その様子を見ながら、菜々美はここねに聞く。
「ここねも行く?」
聞くが、ここねはえへへと笑うのみ。
さっきから、ここねは不自然に喋らない。菜々美のここねレーダーが、目の前にいるここねは本物だといっているから本物なのだが、なぜか存在しない教室についてもなにも言わない。なぜ黙ったままなのか。
「なにか……知ってるの……?」
もしやと、菜々美は注意を払いながら、恐る恐るここねに問いかける。
なにも答えず笑うここね。これは、本物のここねになにか良くないモノが取り憑いたのかもしれない。
「ここね……? ここね‼」
「わわっ、どうしたの菜々美ちゃん」
肩を掴んで揺らされるとは思っていなかったここね、思わず反応をしてしまう。
いつもの反応で菜々美は安堵の息を吐く。
「良かったわ、もしかして取り憑かれたのかと……」
「そんなことないよ」
そう言って笑うここねだったが、突如制服のリボンを解き、ブラウス第一ボタンを外す。
「でも、心配なら……菜々美ちゃんしか知らない場所を見て、確認する?」
「ああああああああああああああああああっ‼」
強襲された菜々美、当然身を守る術など無い。
いつも通りいや、それ以上の爆発。
「びっくりしたではないの」
「なんで爆発するんですかぁ」
いつしか家庭科室出入り口付近での攻防になっていた涼香と涼音が、手を止めて爆発源を確認する。
ここねは制服を正して二人ににっこりと笑みを向ける。
「菜々美ちゃん行けなくなったみたいだから、わたし達は留守番するね」
かくして、涼香と涼音の〝存在しない教室〟の調査が始まる。




