家庭科室にて
「私の気持ちを答えなさい」
「涼音ちゃんに会いたい」
「正解よ! 私検定二級を上げるわ! ちなみに涼音は準一級よ」
「いらないわ。ちょっと意外だけど、いらないわ」
ある日の放課後。
家庭科室でいた涼香と菜々美。
ちなみに涼音とここねは席を外している。
こうして一対一で話すのは久しぶりではないかと、まあ夏休みを挟んだのだから当然なのだが、菜々美は思っていた。
「…………」
「…………」
「…………いい天気ね」
「私達の仲ではないの。無理に話題を作らなくてもいいのよ」
「じゃあ黙ってるわ」
「涼音は可愛いのよ」
「知ってる。ここねも可愛いわ」
「黙ると言ったではないの」
「えぇ……」
特に話す話題も無いし、それを気まずく思う関係性でもない。ただ、暇なのだ。
受験勉強をやれと言われるかもしれないが、如何せんやる気が出ないのだ。
そんな菜々美は涼香の顔を見ながら、二年前のことを思い出す。それも入学してすぐの頃を。
「まさか、こうなるとはね……」
その時の自分に、今の自分を見せたらなんと言うだろうか。
そんなどうでもいいことを考える。
「どうしたのよ嬉しそうな顔をして? もし涼音のことを考えているのなら教えなさい」
「考えて無いわよ」
「照れなくてもいいのよ」
本当のことを言ったのだが、なぜか涼香は信じず、全て知っているのよ、とでも言いたげな笑みを湛えている。
「本当に考えて無いから」
そう言いつつも、この目の前にいる恩人は、本当は自分の考えていることを見透かしているのではないかと思ってしまう。
「涼音はね、可愛いのよ」
「それ、二人になってから二十回は言ってるわよ」
やはりそれは、杞憂に違いない。




