昼休みにて 6
観念した涼音が、心底面倒そうな顔で涼香を見る。
「照れるわね」
一人喜んでいる涼香を放って、彩はできる限り情報を集めようとする。その周りでは、他の三年生達も聞き耳を立ている。
「てかさ、なんでそんなもんやることになったんだ?」
「知りません」
「佐藤さんがいるからだったような……」
やる側の涼音ではなく夏美が答える。
「誰だ?」
「あっ! 思い出した‼」
彩の純粋な疑問に答えたのは夏美ではなく若菜だった。
全員の視線が声を上げた若菜に向く。
「二年生で一番の子だったと思う!」
それだけで涼香以外はどういう意味か理解したのだろう。水を打ったように静まりかえる教室内。するとその後に続いたのは夏美だった。
「あの、はい……私達二年生の中で、水原先輩みたいな人なんです」
そう言った後、わたわたと手を振って付け足す。
「あっ、もちろん水原先輩の方が綺麗ですけどね!」
「私に並ぶ天才がいるのね」
「涼香! ちょっと手伝って‼」
突如として外から涼香の呼び出しがかかった。
この話の間は涼香を離しておいた方がいいと判断した誰かが、他のクラスの生徒を呼んだのだ。
「食べてからではダメなの?」
「十分ぐらいで終わるから、お願い!」
「……全く、仕方がないわね。少し席を外すわ」
あっさりと頷いた涼香が教室から出ていく。完璧な連携、それと同時に、この話は十分以内で終わらせなければならないという制限時間が設定された。
十分以内で、より多くの情報を集められるかどうかは彩の腕にかかっている。
「その佐藤ってのがやるって言い出したのか?」
一秒も無駄にはできないと早速彩が夏美に質問をする。
「いえ、私はクラスが違うんで詳しく知らないんですけど、でも多分他の子が佐藤さんがいるんだしやろうって言ったんだと思います」
「なるほどな。それで、佐藤は乗り気だったんだな?」
「はい。王子様みたいな人なんです。行事とか率先して参加しますし、困っている人に手を差し伸べたりとか。頭も良くて運動もできてスタイルも良くて、もう本当にカッコ良くて――」
「別にそういうのは聞いてないから」
永遠と話し出す夏美を、彩は唸るような声で止める。誰の目から見ても機嫌が悪いのは明らかだった。ただ、その理由を知っている人間は今ここにいない。
それでも少し空気が変わってしまったことで、元に戻そうと若菜が横から失礼する。
「確かめちゃくちゃ金持ちだったよね?」
「あ、はい。噂ですけど、リムジンで登校しているらしいです」
「なるほどね、スッキリ。で、人気っていうか、周りの騒ぎ具合的なのはどんな感じなの?」
この質問には夏美はすぐに答えようとせず、少し考えてから口を開いた。
「やっぱり、一番人気なのは水原先輩です。なので、それに比べると有名だけどそうじゃないような……。みんな名前は知っているけど、水原先輩と目が合えば一年間病気しないとか、神話めいた物はないです」
「え……なに? 涼香って神様扱いなの?」
「はい‼ それはもう! 私なんてこうしてお弁当を食べるのなんて恐れ多くて!」
「だったら帰ればいいのに」
「檜山さんも‼ 二年生の中では有名だよ! すっごく可愛いし、水原先輩と仲が良いし。羨ましいがられてるよ! 私には当たり強いけど……」
「自覚あるんだ」
「夏美に優しくしろって言ったよな?」
「言われた記憶無いですし、まだ結構優しく対応してますよ」
脱線したり戻ったり、そうやって騒いでいると十分が経ち、涼香が戻って来た。
「終わったわ。あら? 食べずに待っていてくれたのね、ありがとう。さ、食べましょうか」




