昼休みにて 3
「いたあ! 檜山さーん‼」
その声が聞こえた瞬間、涼音は振り返ることなく三階目指して階段を駆け上がる。
本当は聞こえないはずの声が聞こえた理由、それは涼音に身の危険が迫っているからだ。
階段を駆け上がり、一番近くの教室に入る。さすがにヤツも三階までは来にくいだろう。そう思ったのだが、万が一涼香のいるクラスには入りやすいということもある。だから涼音は涼香のいない教室に入ったのだ。
それなのに――。
「檜山さーん……?」
恐る恐るといった様子で声が聞こえてきた。
声の主――伊藤夏美。ひょんなことから、涼音に絡みに来るようになった。涼音にとっては邪魔で仕方のない同級生だ。
ちなみに夏美は綾瀬彩と仲がいい。その証拠に――。
「あっ、先輩‼」
さっきまでの様子はどこへやら、明るい声が響く。
「……なんで来たの?」
その声に返すのは、ため息と共に発せられた声だった。
「あの、えと……、檜山さん見かけて声をかけたら、気づいてないのかなあって……それで後を追って」
「涼音と聞こえたわ‼」
「黙っててくれ……」
「水原先輩⁉」
(あ、終わったな……)
賑やかになった廊下を、感情の抜けた顔で見つめる涼音。
「……一応、隠れてみる?」
教室内で三年生が声をかけてくれるが――。
「いや、もういいです」
どうせすぐに見つけられる。抵抗する意味は無い。
そしてその後すぐに、それはやって来た。
「来たわよ‼」
そもそも、夏美が三階に来た時点で涼音の負けだったのだ。




