休み時間にて 3
「涼音、こっちを向きなさい」
休み時間のこと。
せっかく三年生の教室へやって来たのにスマホばっかり触っている涼音を涼香が呼ぶ。
「なんでですか?」
「私がここにいるからよ。あと、いつもなにを見ているのかしら? あと、涼音はどこを向いていても可愛いわ」
「海鮮が美味しいお店です」
「なら仕方ないわね‼」
「嘘ですけどね」
「……嘘は呼吸ではないのよ」
そんなどうでもいいようなやり取りをしながら時間を潰す。
十分しかない休み時間、その少しの時間をできるだけ穏やかに過ごしたい涼音。
それに、こうして涼香を席に釘付けにすることにより、無用なトラブルを防止する効果も期待できる。実際、涼音がこうしていることにより、休み時間に起きる被害の数が激減したというデータがある。
「涼音」
「なんですか?」
「トランプを持って来たのよ」
「遊ぶ時間ありますかね?」
「マジックを見せてあげるわ」
そう言って涼香はリュックの中から、紙のケースに入ったトランプを取り出す。
「この先のパターン読めましたよ」
それを涼音が取り上げようとするが。
「種明かしはやめなさい!」
涼香はトランプを頭上に上げて涼音の手から逃れる。
涼音の頭の中では、この後の被害状況の計算が始まった。どうせ涼香のことだから、トランプをぶちまけるだろう。それを回避するためにはトランプを取り上げるしかないのだが、当然抵抗するだろう。そうなればぶちまけてしまう。
どんな選択を取ろうとぶちまけるのだ。
だから涼音は、原子程度の期待を抱きつつ、後片付けが楽な方を選んだ。
涼音がなにもしてこないことが分かったのか、涼香は気を取り直してトランプを箱から取り出す。
そしてトランプを切ろうとして――。
「あら」
案の定ぶちまけるのだった。




