休日にて
「はい、久しぶりのケーキです」
「……本当に久しぶりね」
土曜日のこと。
寝起きの涼香の前に置かれる、涼音の手作りケーキ。
涼香は目を擦りながら、目の前にあるショートケーキを見ていたが、やがて睡魔に負けてローテーブルに突っ伏した。
「えぇ……」
「もう食べられないわ……」
そんな寝言を言う涼香の頭をベシベシ叩いて強制的に目を覚まさせる。
「痛いではないの」
「あたしの作ったケーキ、いらないんですか?」
「いるに決まっているではないの。でもそれはそれよ。眠たいのよ私は」
「はい、あーん」
「眠たいと言っているではないの――んっ、美味しいわ。少し変えたのね」
強制的に口に入れても目が覚める訳ではなく、目を閉じながらケーキの変化を語る涼香。
「この少ししっとりとしたスポンジに染み込むような生クリーム。でもしつこくはなくて――」
「うるさいですね」
「――んっ、美味しいわ。少し変えたのね、この少ししっとりとしたスポンジに染み込むような生クリーム。でもしつこくはなくて――」
「うるさいですね」
「――んっ、美味しいわ。少し変えたのね、この少ししっとりとしたスポンジに染み込むような生クリーム。でもしつこくはなくて――」
「うるさいですね」
「――んっ、美味しいわ。少し変えたのね、この少ししっとりとしたスポンジに染み込むような生クリーム。でもしつこくはなくて――」
「うるさいですね」
最後の一口を口に入れた後、涼音は涼香に質問してみる。
「いまあたしがなに考えているか分かります?」
「お姉ちゃん大好き。それにしても美味しいわ。少し変えたのね、この少ししっとりとしたスポンジに染み込むような生クリーム。でもしつこくはなくて――」
「誰がお姉ちゃんですか。ああもう、なんで同じことばっかり言うんですか!」
涼音がぷんぷん怒るが、涼香の語りは終わらない。そしてようやく味の感想を伝え終えた涼香が得意げに答える。
「この思いを、涼音に伝えたかったのよ」
「さっさと寝てください」
再びローテーブルに突っ伏す涼香であった。




