授業中にて
「文化祭、なにか案ある人ー」
今日の六限目は文化祭の出し物を決める時間だった。
十月下旬の文化祭に向け、クラスはなにをするのか。文化祭に興味の無い涼音は、一応聞いてはいるがどうでもいいといったスタンスだ。
ただ、涼香が絡んだり、自身に降りかかる面倒ごとを回避するため注意するのは怠らない。
周りで飛び交う案を聞きながら、涼音は当日のシミュレーションを行う。
文化祭は招待制、そして女子校ということもあり、女性限定というものだ。家族であっても男性の入場はできない。他には近くの中学の女子生徒が招待される、一応遠くの中学でも、申し込みさえすれば来ることができる。後は各生徒の友達などだ。
男性が来ないとはいえ、毎年文化祭は大騒ぎになる。
大騒ぎになるのだから文化祭自体止めてしまえと涼音は思っているが、涼香は文化祭を楽しみにしているため言うだけに留めている。
大騒ぎの原因はこの学校の、ある特色によるものらしい。聞いた話によると、この女子校には一学年に一人、容姿端麗、文武両道の完全無欠超絶美人がいるらしい。その生徒がいることにより、大騒ぎになるとのことだ。
一学年に一人に関して涼音は半信半疑だが、実際涼香の人気は凄まじかったため、対応せざるを得ないのだ。
(文武両道って先輩どっちもダメじゃん。それに、そんな生徒同学年で知らないし、一個下も知らないし。誰が言いだしたんだろ)
見た目以外は涼香に当てはまらないが、その見た目で二年、一年生には人気なのだ。敵は学内にもいるのだ。
(どうせ先輩は好き勝手動くだろうから、部活の出し物を回ってもらって……)
そうやって涼音が考え込んでいると、教室内がワッと盛り上がった。
「じゃあうちのクラスは王子喫茶で決定ー‼」
(……は?)
「って言ってもメインは佐藤さんになるんだろうけどねー」
(佐藤? 誰? いやそれよりも――)
「佐藤さんと……檜山さんとか?」
(やっぱり‼ やりたくないんだけど‼)
「だよね! 可愛い檜山さんが王子ってギャップだよね!」
(無理だって‼)
勝手に盛り上がる教室内、もう涼音がどうこう言おうとどうにもならない所まで話は進んでいた。
「檜山さん! やってくれる?」
「えぇっと……、でもあたし……そういうの恥ずかしいから……」
一応抵抗してみるが――。
「お願いします‼」
「でも……そんなに頼まれても……」
無視して冷たくあしらいたいのだが、今後のことを考えるとそれは避けた方がいい。かといって大人しく頷くかといえばそうではない。
できる限りの抵抗はしてみる涼音である。
(マジでしつこいんだけど⁉ だから嫌なんだよ有象無象が‼ ああもう! 絶対‼ ヤダ‼)
そんな内心をおくびにも出さない涼音。もういっそのこと全部吐き出してこの場を凍らせてやろうかと思った時、その声が響いた。
「そこまでにしたまえ、彼女が嫌がっているじゃないか」
女性にしては少し低く、澄み切った綺麗な声だ。
まさかの助け舟に内心目を輝かせた涼音を含む全員が声をした方を向く。
「佐藤さん……!」
誰かがそう呟く。まるで遠目から城に住む王子様を見た民のように。
「僕なら、嫌がっている子に無理やりさせるなんてしないよ」
そう語る彼女の姿を見た瞬間、涼音は自分の飛び乗った舟が泥舟だったことに気づいた。
(あっ、これダメなパターンだ)
なにかを察した涼音。
「あ、やります……」
だから涼音は、その舟から飛び降りるのだった。




