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家庭科室にて
ある日の放課後の家庭科室でのこと。
「暑いの暑いのー、飛んでけー、――飛んでかなーい」
「涼音がおかしくなったわ……」
九月に入っても気温はさほど下がらない。いつまでこの暑さに付き合えばいいのか。
「マジなんなんですか……暑すぎでしょ……」
やはり冷房からは逃れられない運命なのだ。トイレから戻ってきた涼音は、仰向けに寝転がり、冷たい空気を前面で受ける。
「ここね! 氷を持ってきなさい!」
「うん!」
「氷じゃなくて扇いであげた方がいいと思うわよ」
菜々美が団扇で涼音を扇ぐ。
「酢飯ですね……。ははっ……」
「涼香に似てきたわね」
「お姉ちゃんに似てきたですって」
「……誰がお姉ちゃんですか」
「氷持ってきたよ」
「ありがとう」
涼香は氷嚢を受け取るとすぐさま涼音の額に当てる。
「あー冷たい」
「体を冷やすのなら、太い血管が通っている場所の方がいいわよね」
「それなら首かしら」
「あう、冷たい」
そうやって、体を冷やしてもらう涼音であった。




