模試返却の日にて 6
「来たわよ‼」
教室に来てほしいと呼ばれた涼香が、いつも通りにやって来る。
ここだけ見ればなんら変わっていないように見えるが、その後の動作がいつもとは違う。
薄暗い教室で自分の足を踏むことなく、机にもぶつからず、無傷で涼香はやって来たのだ。
教室で待っていた若菜達は、その姿がもう見られないんだな思うと、黙っていてもいいのではないかと考えてしまう。
教室の席はコの字に並べており、若菜達はみんなそこに座っている。そうやって空いた教室の真ん中には椅子を一脚――涼香が座る椅子だ。
涼香はそこに座ると髪の毛を払う。
「あらあら、放課後なのにこんなに残っているなんて。明日は雪でも降るのではないかしら」
「うざぁ……」
誰かが言う。
――やはり涼香をいつも通りに戻すべきだ。
続いてやって来た涼音は、菜々美とここねと並んで座る。
準備万端、確認した若菜が口を開く。
「良い知らせと悪い知らせがある。どっちから聞きたい?」
「良い知らせからよ」
「入試は九月じゃない」
「え?」
テンポ良く進みだした茶番がいきなり急停止する。
知的さを手に入れた涼香の顔が、いつも通り見慣れた顔に戻っていく。といっても、それが分かるのは同級生と涼音のみだ。
「……でも委員長も言っていたわよ?」
「嘘だね」
「そんな訳ないではないの。ちなみに悪い知らせというのは?」
「涼香は騙されている」
涼香は恐ろしいものを見たような表情で涼音を見る。腕を組んだ涼音は黙って頷くのみ。
「そこでにやにやしている綾瀬彩。本当なの?」
「調べれば分かるだろ」
「委員長が変わったって言っていたのよ?」
「そんなもの急に変わる訳ないだろ」
椅子に座った涼香は、真っ白な灰になるのだった。




