模試返却の日にて 5
「要するに、水原と檜山は騙されてるってことだな?」
「そういうこと」
纏めた彩の言葉に若菜が頷く。
「それにしても、受験が九月って言われて信じるもん?」
凜空が純粋な疑問を口にする。
いくら涼香でも、そんな調べれば分かることで騙されるのだろうか? それに、涼音も一緒に騙されるなんて思わない。
「あいつの母親が言ったからな」
「それに紗里ちゃんも一枚噛んでるし」
「あー……あの人達……」
一度見たことのある涼香の母と、ついこの前、共にボウリングをした紗里の姿を思い出す。
「そら信じるよな」
「そんなに凄いの? ぼくあまりその二人に関わったこと無いから分からないんだけど」
全て解った風の彩に誰かが聞く。
「春田」
彩が若菜に説明を丸投げすると、若菜がそれっぽく黒板になにかを書く。
「端的に言うと、涼香のお母さんは今でも模試をすれば絶対に全国一位取るし、紗里ちゃんも涼香より上の順位は取れる」
黒板にへのへのもへじを描いた若菜の言葉に一同はドン引く。
「ヤバいよね」
凜空の言葉を継いで彩が言う。
「どうせこの流れも水原の母親の読み通りだ」
「あー、そゆことね」
そこで凜空が涼香の母の目的に気づいた。
そして若菜はそれっぽくまとめる。
「とりあえず、涼香に事実を話します。そしたら涼香の学力は徐々に下がって、入試本番にはギリギリ受かるぐらいの学力に下がります」
ここまで言ってこの場にいる全員が、涼香になにが起きているのか理解したらしく、口々になるほどるのだった。
一方その頃――。
「――という感じで涼香を元に戻したいんだけど……」
「待ってください……あたし騙されてたんですか……?」
一足早く、事実を知った涼音が恐ろしいものを見たような表情を浮かべる。
ある意味涼音も被害者だ。涼香を騙すためにはまずは涼音からだ、という理由で騙されただけだなのだ。
「くっそ……騙された!」
涼香に聞こえないボリュームで机を叩く涼音。
「明日から、多分涼香はいつも通りになると思うけど……それでもいい?」
「今の先輩楽だったんですけどねえ……。入試に影響がでないのなら好きにしてください」
涼音の同意は取れた。この後、涼香を教室へ呼び、真実を伝える。
「ここね、紅茶の温度管理は大切なのよ。貸してみなさい、やってあげるわ」
そんな頼りになる涼香の言葉を聞いて、涼音と菜々美はため息をつくのだった。




