模試返却の日にて 4
「今日、みんなに集まってもらったのは他でもない」
なぜかカーテンが閉められ、教室の電気も消している中、若菜が肘を机について指を組み、それっぽく言う。
時刻は放課後しばらく経った後。遮光カーテンではないため、夏の日差しがカーテンを貫通する。
今回のこれに関して、彩はなにも言わない。
「涼香の現状についてだ」
「その涼香は?」
教室にいる誰かが聞く。
「涼音ちゃんと一緒に家庭科室。ここね達に身柄を拘束してもらってる」
あの後、若菜は一斉メッセージを送ったのだ。
『明日からいつも通りの涼香に戻していい?』と。
問題を起こさない涼香でいてほしかったが、なぜかあの完璧美人の涼香は気持ち悪いのだ。
フォローをしなくてもいいし、下級生の想像通りの涼香なのだが、完璧美人の涼香は気持ち悪いのだ。
――気持ち悪いのだ。
ということで、満場一致で『戻せ』の言葉を貰い、今に至ると言うことだ。
「夏休み、涼香に起きたことを話そう」
それっぽく始めた若菜に、一同は黙って耳を傾けるのだった。
一方その頃――。
「ここね、今日の気温と湿度考えて、生地を混ぜる回数はあと十三回増やしないさい。一秒に一回、空気を含ませるように」
「涼香ちゃんが難しいこと言ってる……」
ここねに、家庭科室へ来るようにと言われた涼香と涼音。今度の文化祭で作るお菓子の試作に付き合ってほしいとのことだった。
「当日の予想からすると、小麦粉の分量を小さじ五分の一程増やしなさい。文化祭当日の天気は晴れるわよ。来場者も過去最高を記録するわ」
「涼香ちゃんが未来予知してる……」
そんな二人の様子を見ながら――。
「あれっていつも通り適当なの?」
「多分当たります」
「えぇ……」
「いいですねえ……先輩のフォローをしなくてもいいって」
今の涼香は小麦粉をぶちまけないし卵を無駄にしない。今日は誰一人にも迷惑をかけることは無かった。
「涼音ちゃん、本当にそれでいいの?」
しみじみと、温かいお茶を飲みながら言う涼音に菜々美が言う。
「なにがですか?」
「涼香が完璧になってしまうと、……その、なんて言うか……」
涼音に伝える言葉を選ぶ菜々美。言葉はあるが、こんな言い方は良くないのではないか、そう思うとなかなか口を開けない。
「菜々美、安心しなさい」
菜々美が口を開けないでいると涼香の声が聞こえた。
「私と涼音は変わらないわ」
「……そう、よかったわ」
涼香がそう言うのならそうなのだろう。
菜々美は涼音に向き直る。
「なんでもないわ」
そう言って話を終えようとした時、声を潜めた涼音が言う。
「ぶっちゃけどうなんですか? 先輩方から見た今の先輩って」
「気持ち悪いわね」
声を潜めた菜々美が即答するのだった。




