模試返却の日にて 3
「彩に凜空、あなた達の順位を下げてしまったことに関しては謝らせてもらうわ」
凜空が本題に入ろうとしたが、それを遮るように涼香が口を開いた。
「いやそれは別にどうでもいい」
「癪だけど同意」
「今すぐ凜空に謝れ土下座しろ」
「真奈はちょっと黙ってて」
「凜空……⁉」
固まった真奈を横に避けてもらう。
それを見た涼香が口を開く。
「謝らせてもらうわ」
「いいから見せろ」
休み時間は十分しかないのだ。さっさと見てさっさと帰りたい。
彩も凜空も、本当に涼香が一位なのか確認したいだけなのだ。
「……仕方ないわね。みんな聞きなさい。私が少し本気を出せばこうなるのよ」
「このクラスの人間はさっき聞いたよー」
誰かのツッコミが入る。
そんなツッコミを入れられても、涼香は余裕の表情だ。その一挙手一投足が舞のように洗練されて美しい。そこにいるのは、要注意問題児水原涼香ではなく、ただの学校一の完璧美人水原涼香だ。
「見なさい」
遂に結果を彩と凜空に魅せた涼香。
「嘘だろ……」
「やぁば……」
当然全科目校内一位。全国順位で見ても一桁順位だろう。
ただそんな中で唯一奇妙なのが、志望大学のレベルだった。
彩と凜空の志望大学よりもかなりレベルが下の学校だ。
元々その志望大学すら行けない成績だった涼香が夏休みに勉強を頑張り、合格圏内に入っただけなのだが、それにしては過剰な学力だ。
一体なぜだと、彩と凜空の思考はそちらにシフトする。
「ヒントあげようか」
考え出した二人に若菜が声をかける。
「いやいい。なんとなく解ったから」
「え」
彩の言葉を聞いた凛空が固まる。
そして、え、解らないの? とでも言いたげな彩の顔を眉根を寄せて睨む。
一触即発の空気が漂う。しかしその時丁度休み時間終了のチャイムが鳴る。
「精々足りない頭で考えてろ」
鼻で笑った彩が教室へと戻って行く。
下唇を噛んだ凛空も、真奈を放って教室へと戻る。そして凛空の気配が離れたことを感知した真奈を再び動き出して後を追う。
それに続いて、他のクラスから様子を見に来ていた生徒達も戻っていく。
「全く、困った子達ね」
「それが私らの普段の気持ちだと思う」
そして、若菜はスマホで一斉にメッセージを送信するのだった。




