夏休み明け初日にて
2学期編です!
夏休みが終わった。終わったといってもまだ八月。連日気温は猛暑日を記録し、誰もが俯きたくなる暑さが襲う。
こんな夏をあと一年、二年と過ごさなくてはならない。もう嫌だと、生徒達が早く冷房の効いた教室へ逃げたいと歩く速度を早める。
しかし、次第に生徒達の歩く速度は遅くなり、やがて立ち止まる。
いったいどうしたのか。
立ち止まった生徒の目に映るのは一人の三年生の姿があった。
艶のあるまっすぐな黒のロングヘアーを携え、こんな夏でも、シミひとつない、日焼け知らずの肌。左目尻にあるほくろが特徴的で、一見冷たく見えるその目は、相手を突き放すよりも吸い込んでしまう程の綺麗さを誇る。
息をすることすら忘れてしまう、自然が生み出す絶景を見ているような、その場の空気すら変えてしまう程の美人。
水原涼香――それがその生徒の名前だった。
そして、誰もが涼香に目を奪われて動けないでいる中、一人だけ涼香の少し後ろを歩く生徒の姿があった。
(やっぱ先輩と離れて歩いて正解だったなー)
そんなことを考える生徒は檜山涼音。茶色に染められた長い髪をおさげにしており、クリっとした目はとても可愛らしい。この学校で一番可愛い子は? と聞かれれば、真っ先に名前が上がる。
しかし、そんな涼音がいても、周りの視線を奪うのは涼香だ。周りが固まっている中、一人だけ動いているという異常事態、だけど誰も涼音には気づかない。
そして、涼香が校門を抜け、生徒達の視界から消えて初めて、生徒達は動くことができた。
上がるのは黄色い歓声、夏休み明け早々、あの水原先輩を見ることができた。それだけで大盛り上がりだった。
「みんなおはよう」
突然聞こえた、普段ならこの時間聞こえない声に、三年の教室にいた生徒が振り向く。
「あ、涼香ちゃん。おはよう!」
そう言って、微笑みながら手を振ってくれるのは芹澤ここね。黒なのだが、光の当たり具合によっては茶色に見える髪をサイドテールにした、小柄な体躯が特徴的な生徒だ。目が大きく、小動物のような思わず守ってあげたくなる雰囲気がある。
「涼音ちゃんはいないの?」
ここねの隣で座ってそう言ったのは、柏木菜々美。肩口まで伸びてた赤毛の髪を持つ、少し釣り目の美人な生徒だ。
「いますよ」
そしてタイミング良く、涼音が三年生の教室へ入ってきた。
「やっぱ先輩目立ちまくりですね」
「それは毎回変わらないわよね……。それで、なんで今日は早いの? まだ八時前よ?」
菜々美は立ち上がり、涼香に席を譲ると涼音に問いかける。いつもの涼香なら、遅刻ギリギリに来るはず。なにがあったのか。
「菜々美。私達は受験生なのよ? 学校へ早く来て、勉強をするのは当たり前ではないの?」
「って感じです」
「えぇ……」
至極真っ当な言葉。ただ、それよりも戸惑いの方が大きい。
その間に、席に着いた涼香はテキストを開いていた。
「わっ凄い……涼香ちゃんが難しい問題を解いてるよ」
涼香の解いているテキストを覗き見したここねが口を押える。
「受験生ですから」
訳知り顔で頷いている涼音。
「涼音ちゃんがそう言うのなら……」
菜々美とここねは、涼音のリアクションを見て、涼香が病気ではないのだと判断した。




