凛空と真奈 真夜中の習慣
「凛空凛空凛空凛空凛空凛空凛空凛空凛空凛空凛空凛空凛空凛空凛空凛空凛空凛空凛空凛空凛空凛空凛空凛空凛空凛空凛空凛空凛空凛空凛空凛空凛空凛空凛空凛空凛空凛空凛空凛空凛空凛空凛空凛空凛空凛空凛空凛空凛空凛空凛空凛空凛空凛空凛空凛空凛空凛空凛空凛空凛空凛空凛空凛空凛空凛空凛空凛空凛空凛空凛空凛空凛空凛空凛空凛空凛空凛空凛空凛空――」
暑くて寝られない、疲れていないから眠れない。眠れない理由が、そんな一般的な理由ではない津村真奈。
今日も今日とて、凛空のことを考えているため眠れない。
凛空にこの感情を抱いてから毎日繰り返している。
そしてここからの流れもいつも通りだ。
布団から抜け出した真奈は、部屋の窓から外に出る。
そして、真奈を照らすのが星明りだけの道――というか軒を連ねる家の屋根を走り、凛空の住む家へと向かう。
こんな深夜に出歩く人間などほぼおらず、また、いたとしても誰も真奈には気づかない。
いつもの習慣、見た目の割には真面目に勉強をしている凛空の勉強は、夏休みということもあり、夜遅くまで続いていた。
ただ、それももう睡魔が姿を現したところで中断する。明日も休みなのだ、無理をする理由も無いし、無理をして勉強をしても意味が無い。
それにそろそろ来る時間だろう。
そう思って、カーテンを開けている窓を見ると――。
『凛空凛空凛空凛空凛空凛空凛空凛空凛空凛空凛空凛空凛空凛空凛空凛空凛空凛空凛空凛空凛空凛空凛空凛空凛空凛空凛空凛空凛空凛空凛空凛空凛空凛空凛空凛空凛空凛空凛空凛空凛空凛空凛空凛空凛空凛空凛空凛空凛空凛空凛空凛空凛空凛空凛空凛空凛空凛空凛空凛空凛空凛空凛空凛空凛空凛空凛空凛空凛空凛空凛空凛空――』
窓にべったりと張り付いた真奈がいた。
「今日もピッタリじゃーん」
窓の鍵を開けてあげ、ウェットシートを渡すと、足を拭いた真奈が部屋に入ってきた。
「凛空の部屋……凛空の部屋凛空の部屋……」
そう呟いて荒い深呼吸を繰り返す。何百回も繰り返しているのだから、いい加減慣れてほしいものなのだが、このままでもまあいいかと凛空は思い直す。
「飽きないねえ、真奈も」
口調こそはいつもの口元ゆっるゆるの凛空だが、家で夜ということもあり、いつものうるさいメイクはしていなかった。
いつものあのメイクをしている凛空の今の姿を見れば、同級生達はなんと言うのだろうか。別に顔が整っている訳でもないし愛嬌がある訳でもない。唯一すっぴんを見せる機会のあった修学旅行は体調不良で欠席。もう、見せる機会も無いだろうしどうでもいいか。
「飽きるはずない。凛空はワタシの全て。凛空は守るし凛空の願いならなんでも叶える」
「えー、あたしの願いならなんでもねえ」
これもいつものやり取り、そしてこの後、凛空の言う言葉は決まっているのだが、真奈は律儀にも、凛空が言うまで動こうとしない。
「じゃあさ、抱きしめて……?」
いつもの願い。それを言うと、真奈は少し悲しそうな目をするのを知っている。それでも、それが凛空の願いだ。すぐにそっと、脆く儚いガラスのような凛空を包み込むように抱きしめてくれる。
――誰も知らない、自分だけが知っている凛空の姿。
真奈が凛空に、本当に願ってほしいことはそれではない。真奈が凛空に、なにを願ってほしいのかは間違いなく伝わっているはずなのに、凛空はそれを望んでいない。
この脆く弱い、自分の腕に収まるワタシの全て。それでも、凛空は強く生きようとする、逃げることなどせずに、立ち向かう。それを、真奈は美しく強いとも思う。
だからこそ、今すぐ楽にさせてあげたい。だけどそれを凛空は望んでいない。
今は隠されていない、泣きあとをそっと撫でながら、真奈は凛空を抱きしめるのだった。




