若菜と紗里 私のせい 10
「――どうしたのっ……大丈夫⁉ なんで⁉」
明らかに取り乱してる若菜に、後ろ髪を持ち上げていた紗里は言う。
「ただの傷跡よ」
「でもっ――」
捲し立てようとようとする若菜の口を、振り向いた紗里が人差し指で抑える。
「若菜には……どうしても知っておいてほしかったの」
勇気を振り絞ってそれだけは伝える。
指を離しても、若菜はなにも言わない。
勢いを削がれ、なにを言えばいいのか分からなくなっている。
「先に入っているわね。まだ、知ってほしいことがあるから」
そう言って、今更だが、真っ裸で若菜に向き合っていたことに頭を沸騰させながら浴室へ、右の手と足を同時に踏み入れる。
紗里ちゃんの背中を見た時、そんなことあるのかって思った。
白くて綺麗な背中、その右肩から腰に向かって、肩甲骨を通るぐらいに、裂傷跡が走っていた。
どうしてそんな跡があるのか、大丈夫なのか、驚きと心配が前触れもなく噴き出した。
紗里ちゃんはただの傷跡って言っていたし、今は普通に運動もしてる。だから、昔に負った傷なんだって少し冷静になって分かったけど、なんでそんな傷を負うことになったのかは分からない。
でも、さっきの言葉は多分、それを教えてくれるって意味だと思う。
今まで見たことないぐらい真っ赤になった紗里ちゃんの姿を見ると、本当に勇気を出して見せてくれたんだと、少し申し訳ない気持ちになる。
紗里ちゃんが傷跡を気にしているのなら、全然気にしてないよって言って安心させてあげなくちゃダメだ。
だって私は気にしていないし、なにがあっても、紗里ちゃんは私にとって大事な友達――っていうか先輩だから。




