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百合の一幕 涼香と涼音の緩い日常  作者: 坂餅


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菜々美とここね あなたの求めるもの

 涼香(りょうか)の誕生日が終わると、夏休みは既に一週間を切っていた。


 残された夏休みの使い方、殆どが入試に向けての勉強をしている。夏休み中に進学先が決まった生徒以外は遊んでいる暇など無い。


「ここねの誕生日も、この前の涼香の誕生日みたいに大々的にやる?」


 それでもずっと勉強できる程集中力は持たない。息抜きがてらに、この前の誕生日会の様子を思い浮かべ、菜々美(ななみ)は隣に座るここねに話しかける。


「わたしだと涼香ちゃんみたいに人集まらないだろうし、菜々美ちゃんにだけお祝いしてもらえたらいいかなあ」

「ここね……」


 互いに握るのは、ペンではなく手だ。どことなく甘い空気が漂うが、ここはここねの部屋。邪魔するものは誰もいない。


「もちろん、他の人からお祝いされるのは嬉しいよ。でもね、やっぱり一番大切で、大好きな人にお祝いされたいんだあ」


 夏のようなギラついた太陽ではなく、春の柔らかな太陽のように微笑むここね。


「……そっか。そう言ってもらえると、私も嬉しいわ」


 柔らかとはいえ太陽を直視できないように、ここねの顔を直視できない菜々美が視線を落とす。


「それでね、私が欲しいプレゼントはね」


 そう言ったここねが突如自分の髪を結んでいるリボンを引っ張ると、サイドテールが解け、光の当たり加減で茶色にも見える黒髪が重力に従う。


「菜々美ちゃんだよ」


 ここねはそのリボンを、菜々美の左薬指で再び結ぶ。


「すすすすすす……っ、既にああげてるわよ⁉」


 海に行ってもこんなに赤くならないだろう、顔を真っ赤にした菜々美の口から言葉がこぼれる。


「そうだけどね、そうじゃないの。わたしが欲しいのはね、菜々美ちゃんの一生なんだよ」


 そう言って、菜々美の薬指に唇をつける。


「あああああああああああああああああああ‼」


 いつもの如く、耐えきれず爆発する菜々美であった。

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