涼香の誕生日会にて 9
紗里の意図をここねは汲み取ったのだろう。ちらりと教室の中を覗いた後答える。
「もうみんなケーキ食べ終わるところなんで、大丈夫ですよ」
「それなら、そのまま運ばせて貰うわね」
そう言って三人は涼香のクラスに向かう。
涼音とここねを先頭に、紗里がクラスにやって来た時――。
「イソギンチャクの構え‼」
「……先攻よ!」
「若菜⁉」
まさかの光景に、持っていたクーラーボックスを落としてしまう。
落ちた時の音が、クーラーボックスからは聞いたことが無いほど重たい音だったが、誰もツッコまない。
それよりも、あの紗里が取り乱している姿の方が涼音にとっては意外だった。
若菜は床に寝そべり、脚を天井に向けて伸ばしている体勢をとっていたのだ。
「あら、委員長ではないの」
「あ、紗里ちゃん」
そんな紗里に気づいた涼香と若菜。そしてその他諸々、唖然としている紗里の様子を物珍しそうに見ている。
「……なにをしているの?」
教室内をよく見ると、椅子取りゲームができるように中心に椅子が並べられて、その椅子の後ろに、『大喜利』『ギャグ』『モノボケ』『一分トーク』など、お題のようなものが書かれていた。
そういえばオクラホマミキサーが聞こえていた。
ちなみに涼香は、『先攻』『後攻』と書かれた札を持っていた。
「涼音の作ったケーキ一口争奪戦よ」
「早く食べてくださいよ」
「ああ……そうなの……」
別にそれはいいのだ。
言わないが、若菜がハジケていたことに驚きを隠せないのだ。
一応クラスでの若菜の様子は聞いていたが、実際見てみると衝撃は大きい。
それでも――。
「楽しそうでなにより。それはそうとアイスを持ってきたの、みんなで食べましょう?」
楽しいのなら、別にいい。
すぐに落ち着きを取り戻した紗里は、何事も無かったかのように進めるのだった




