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百合の一幕 涼香と涼音の緩い日常  作者: 坂餅


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涼香の誕生日会にて 8

 夏休みの学校に、私服姿の人物が一人。


「やけに静かね……」


 特別に、涼香(りょうか)の誕生日会に招待された紗里(さり)が、あまりの静けさに眉根を寄せる。


 基本的には、卒業生であっても無許可で校内に立ち入りは禁止なのだがバレなければ問題無い。でも紗里の場合、何度か卒業後にも学校に来ていることもあり、自由に入っていいと許可を得ている。


 来客用の入口から入り、そのまま気配を消して職員室前を通り抜ける。


 誕生日会と言っていたため、かなり騒いでいそうなのだが、今のところそのような声は聞こえていない。


 教室棟の一階の壁に手を当て、そこから感じる僅かな振動を感じ取る。


「……なるほど、防音はしっかりできているわね」


 これぐらいなら、万が一でも気づく者はいない。あまりの静けさに、教員達も平和だと思い見回りをしていないのだろう。


「信用されているのね、涼香ちゃんは」


 これが涼香以外の誕生日会となれば話は別だっただろう。


 それはそうと、紗里は左手に持つ巨大なクーラーボックスに目を向ける。ドライアイスはかなり入れているが、今の夏の暑さはそれすら当てにならない。早く冷房の効いている教室へ向かわなければ。


 若菜から正確な人数は聞いている。それでも余裕のある数のアイスを持って来たが、みんな一つは食べられるだろうか。一応アレルギー対応の物も持ってきているから心配は無いと思うが、アイスその物が嫌いな生徒の代替食は持ってきていない。


 階段を上りきると、目の前に広がる防音構造に目を見開く。


「相変わらずなんでもあるのね、この学校」


 幾重にも重ねられた防音材、その一角には一応中に入れる扉が付いていた。ここから中へ入れということだろう。


 構造の観察をそこそこに、紗里は扉から三階に入る。その瞬間聞こえる楽しそうな声。やっぱりかなり騒いでいた。


「不合格よ!」


 そんな声が教室方面から聞こえる。ドアは開けっ放しにしているのだろう。そして防音構造が項を制し、廊下まで冷房が効いている。


 紗里がとりあえず教室へ向かおうとすると出会ったのは――。


「あ、委員長」

「わあ、こんにちは」


 涼音(すずね)とここねだった。


「こんにちは。アイスを持って来たのだけれど」


 今は食べる時間はあるのだろうか。あれば今配るし、まだなら冷凍庫へ入れに行きたい。

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