涼香の誕生日会にて 4
「急転直下――ケーキ入刀」
ようやく『三年生全員による感謝の言葉』が終わった頃、時間は正午を過ぎている。
時間も時間ということでケーキの準備を始める。
なぜか涼音にも感謝の言葉は届いたため、それ程退屈しなかったが、終わったことにホッとしている。
ケーキは全員分用意をした。涼香だけ特別ケーキで、他のクラスはシンプルなケーキだ。当然涼音は涼香へのケーキを作った。
二班のメンバーがケーキを取りに行っている最中、涼音は紙皿とプラスチックのフォークを配っていた。
「涼音が食べさせてくれるの?」
「そんな訳無いじゃないですか。先輩だけそうめんにしますよ」
「とても意地悪ね」
恐ろしいものを見たような表情を浮かべてるであろう涼香に紙皿とフォークを渡し終えると、涼音は再び席に着く。
モニターを確認すると、全てのクラス食器を渡し終えたらしい。
涼香のクラスだけ、カーテンを閉めて電気を消す。
暗くなった教室で一際目立つモニターの光。するとそのモニターの映像が一斉に変わる。
変わった画面に映っているのは、見覚えのある肩口まで伸びた赤毛の生徒――菜々美だ。
コツコツと音を響かせながらそれっぽく歩いている。映画のワンシーンみたいだ。
『菜々美ちゃん、それっぽいよ』
そんなことを言うここねの声が聞こえた。どうやら撮影者はここねのようだ。
『大丈夫? 重くない?』
『ちょっとしんどくなってきたかな』
『私も手伝うわよ』
そう言って菜々美が画面から消える。ただ廊下を進んでいる映像だけが流れる。
『ありがとう、菜々美ちゃん』
『当然手伝うわよ。あ、そうだ。ここねを映してあげるわ』
『私は菜々美ちゃんと一緒に持ちたいから大丈夫だよ』
『ここね……』
どことなく甘い雰囲気が漂う。
恐らくここねはわざとやっているだろうことが察せられる。
『菜々美ちゃん、落とすと大変だから、もっとこっちに寄って』
衣擦れの音が聞こえる。借りているカメラやマイクは超高性能、これだけ密着したら二人の息遣いまで聞こえてくる。
『ありがとう、えへへ……』
「相変わらず仲が良いわね」
(((((((((付き合ってるんだよな、あの二人)))))))))
その様子をモニタリングしていた一同の中、涼香のポツリとこぼした声が聞こえた者達が胸中でツッコミを入れる。
そのまましばらく二人のいちゃいちゃを見せつけられた後、ようやく目的の教室である音楽室へと辿り着いた。
二人がカメラをセットして教室と繋ぐ。
「ずっと見てた」
『あああああああああああああああああああああああああああああああっ‼』
繋がって開口一番、若菜の指摘で爆発した菜々美であった。




