涼香の誕生日会にて 2
『水原へ、誕生日おめでとう。
私達が出会った時を覚えていますか。
私は今、チャーシュー作りにハマってます。
あの時、私がメンマを作って失敗した時、その時の水原の言葉が無ければ、今頃私は沢庵漬け品評会に出席していたことでしょう。
あの時の言葉、水原からすればただの世間話程度のことだと思いますが、その言葉は今私が作っているチャーシューの味のように染み込んでいます。あっ、今結構上手いこと言った。
それはさておき、あの時の言葉を言いたい、言わせて欲しい。なんでダメなの? 言わせてよ‼
ああ、もう終わりの時間がやってきた――おめでとう、水原、あなたに会えて良かった。
――赤木実祈』
モニターから聞こえてくる言葉に、一同染み入ったように口を閉ざす。そして終わると、割れんばかりの拍手が鳴り響く。
まさかこの流れが続くのか? 頬に汗を流した涼音が涼香を見る。
「嬉しいわ。もちろん覚えているわよ。チャーシューが食べたくなったわ」
――まだ一人目だ、この流れが続くかどうか分からない。
頭を抱えそうになる涼音を置いて、感謝の言葉は進んでいく。
「次は――綾瀬彩」
何人目かで聞こえた言葉に涼音は慌てる。あの綾瀬彩がこれに参加するのかと。彩の性格から到底参加するとは思えない。それに、全てのモニターを見るが、彩の姿は見当たらない。
すると、教室のドアが一気に開かれた。驚いた一同が目を向けると、そこには手紙を持った彩がいた。
いつも通り不機嫌そうな顔をしながら、涼香の元へズカズカとやって来る。
「綾瀬彩ではないの⁉」
「黙れ」
彩は手紙を涼香の机に叩きつけ、すぐさま帰っていく。
「なるほど、音読しろということね」
「するな‼ 家帰って読め‼」
振り返った彩の怒鳴り声とドアの閉まる音が響く。
一瞬で過ぎ去った嵐にしばしの沈黙。モニターを見ると、彩は自分のクラスに帰っていた。
「さて、読みましょうか」
『読むなあああああああああああ‼』
自分のクラスのマイクに向かって絶叫する彩である。




