517/930
夏休みにて 41
「あの頃が懐かしいわね……」
そう言って、マグカップに入った白湯をズズっと飲むのは涼香。
「いつの頃ですか?」
「水族館行った時よ」
「ちょっと前じゃないですか」
冷水を飲んでいた涼音がツッコミを入れる。
あの頃――と言うから、年単位で前だと思った。
「あの頃は夏休みの終わりなんて見えていなかったわ」
「確かにそうですけど」
水族館へ行ってまだひと月も経っていないのだが、涼香の言う通り、夏休みの終わりが見えると、とても遠い過去のような懐かしさを覚えてしまう。
「もう一度行きたいわ」
「涼しくなってからですね」
「約束よ?」
「はーい」
その前に乗り越えらなけばならない障害は考えないことにする涼音である。




