盆休みにて 番外編
――一方その頃。
「……なんであんたがいんの?」
「来ちゃった~」
突然の来客に首を捻って外に出た綾瀬彩と門扉を挟んで立っているのは能代明里だ。
その突然の来客が明里だということで、余計に彩は困惑している。
真夏だというのに汗ひとつかいていなく、いつも通りのほほんとしているのだ。
彩の疑問に答えるかのように、明里は隣の家を指さす。ここら一帯は時代を感じる純和風家屋が並ぶ地区だ。隣といってもそこそこ隣だ。
「おじいちゃんとおばあちゃんの家なんだー」
「ああ、帰省か……」
確かに隣の家に老夫婦が住んでいるということは知っている。そういえば表札も『能代』だったな、なんて考える。
「だから、来ちゃった~」
「そうか、帰れ」
来ちゃったからなんだというのだ。彩は部屋に誰も入れたことは無い。夏美でさえ、いつかは呼べればいいなと思っているだけで入れたことは無い。そもそも夏美は彩の家をしらない。
「なんで? 絶対嫌なんだけど?」
別に綾瀬家は他人を家に招いてはいけないという訳でもない。むしろ彩が友達を家に呼んだとなると両親は喜ぶだろう。
「彩ちゃん冷たいなー」
しくしくと泣いたふりをする明里を冷たい目で見る彩。
「勉強してるから、もう戻るわ」
盆休みだが、受験生である彩は両親と共に帰省はしていない。
「でももう、友達の家で勉強してくるって言っちゃた」
そう言って明里は手提げ袋を持ち上げる。本当に勉強をする気なのだ。
「…………」
明里の成績は中の上程、当然彩の方が成績は上、そして人に教えるのもかなりの勉強になる。
よく考えれば、別に部屋に入れる必要は無いのだ。今は家に彩しかいないし、勉強なら居間ですればいい。
なかなか答えを出さない彩に、明里は口角を上げる。
「もしかして、夏美ちゃんの方が良かった?」
「教えなくてもいい?」
「じょーだん」
「ちっ……まあいいや」
明里なら特に害は無い。それに、明里にだったらもし知られても大丈夫だろう。
ということで、明里を家に招き入れる彩であった。




