夏休みにて 番外編2
夏休みのこと。
「真面目に勉強しよっか」
「そうね」
いつもなら誰にでも邪魔をされないのをいいことにいちゃついているここねと菜々美なのだが、今日は真面目に勉強をすることにする。
元来真面目の部類に入る二人。真面目に勉強すると決めたのなら、真面目に勉強するのだ。
勉強する場所は今日も芹澤家、ここねは夏の強い日差しが苦手なためだ。
かなり広い部屋で二人は向かい合いながら勉強する。部屋の隅には涼香の誕生日会で使用する機材が積まれてある。
二人の学力はそれ程高くなく(涼香よりは高い)、真ん中ぐらい、進学先も無理せずに合格できる場所だ。
「もう一年も……無いんだね……」
勉強する手を止めたここねがぽつりと零す。
突然どうしたんだと、菜々美は手を止めてここねを見る。
「そうね」
「色々あったね」
「ええ」
まだ感傷に浸るには早い気もするが、こうして先に進む準備をしていると、どうしてもこうなってしまうのだろうか。
その気持ちは菜々美にも解る。だからしばらく、ここねと話そうとする。
「本当に……たった三年。だけど、私達高校生からすれば長い三年。色々あったわ」
学校行事もそうだが、なによりも一番は――。
「この学校生活、いつも中心には涼香ちゃんがいたね」
「涼音ちゃんが入学してからはかなりマシになったけど、一年生の頃は凄かったわね」
菜々美達三年生は水原涼香を中心として繋がりができているといっても過言では無い。菜々美とここねもそうだが、みんななにかしら涼香に影響を受けている。
――三年生は全員仲がいい。
他の学校や、他の学年ではありえない奇跡のようなものだ。
「涼香がいたからみんな繋がれた。でも、進学すれば離れ離れになるのよね」
「その先……涼香ちゃんがいなくなったら、みんなバラバラになっちゃうのかな?」
「……どうなのかしら」
「分からないよね」
先のこと、それに、人の心など知る由もない。それは涼香であってもだ。
「でも、涼香が私達の見えない場所に行ってしまうのは嫌ね」
「わたしも、涼香ちゃんがわたしの知らない人達と一緒に過ごしているのを考えると、もやもやしちゃうな」
そんな感情を持つことを恥じるべきだという気持ちを持ってしまい、俯いたここねだが、菜々美はそんなここねの頭を優しく撫でる。
「その気持ちはここねだけじゃないわよ。私もそう、それにみんな思っているわよ。そうじゃなければ、誰も涼香のやらかしをフォローしないわよ」
独占欲がなければ、誰も他学年に本当の涼香を見せないようにと動くはずがない。
菜々美の言葉にここねは顔を上げて微笑む。
「私達みんな、涼香ちゃんのことが大好きなんだね」
「そうね、本人はどう思っているか分からないけど」
先に向かって歩めば、どうしても終わりが見えてしまう。
そんな人生の中で、変わらないもの、変えたくないものそして、絶対に変わってしまうものがある。
それを守り、手に入れ、受け入れていかなくてはならない。
だけど変わってしまうものはどうしようもない、だからせめて、今は既に手に入っているものを守ろう。
「菜々美ちゃん」
「どうしたの?」
「大好き。ずっと一緒にいようね」
「ええ、私も離れる気は無いわ」
二人は互いの目を見て微笑むのだった。




