夏休みにて 番外編
夏休みのこと。
突然通知が入ったスマホを彩は睨む。誰からかと確認すると、夏美からだったため、すぐさま返信を返す。
『先輩!』
『なに?』
『なにしてますか?』
『勉強』
『電話かけてもいいですか?』
『勉強中』
『かけますね!』
すぐさまかかってきた電話。通話ボタンをタップする。
「勉強中なんだけど」
『でもすぐ返信してくれるってことは、手が空いているんじゃないかと』
「なんでそうなるの。……なんでもいいけど」
『先輩の息抜きのためです』
「…………あっそ」
勉強の手を止め、しばらくの間、夏美との通話に時間を割く彩であった。
若菜は勉強の手を止め、近くに置いているスマホにちらりと目を向ける。
さっきから勉強をしているのだが、一人ではなかなか捗らないのだ。
若菜がスマホを手に取り、連絡する相手を探す。同級生の成績上位組は自分たちの勉強で忙しいだろうから、連絡を取るのは当然それ以外の人物になる。
こういう時に快く引き受けてくれ、学力も申し分ない人物に電話をかける。
ワンコールで出た相手に、若菜は安心してお願いをする。
「あ、紗里ちゃん。勉強教えて」
『急ね。いいわよ、迎えに行くわね』
「え、いいよ⁉ 自分で行くから」
『暑いんだから、甘えなさい』
「……じゃあお願い、待ってるね」
『ええ。着いたらまた連絡するわね』
「はーい」
通話を終えると、若菜は早速出かける準備をする。
相手の家に行くのに失礼の無いように身だしなみを整える。古アパートに住む人間が、金持ち(当社比)の家に行くのだ。失礼があってはいけない。
――一方その頃。
大学の夏休み期間中は実家に帰ってきている紗里。
急いで身だしなみを整え、まったく汚れていない部屋を掃除する。
若菜が家に来るのだから当然のことだ。
鏡を見て髪を整えると、リビングにいる父に聞く。
「車借りるわね。若菜を迎えに行くわ」
「免許証持ったか? 気を付けて、事故しないように。深呼吸だぞ」
父に言われて、紗里は自分の心拍数が上昇していることに気づく。冷静になれ、落ち着け、事故は起こしてはならないと、深呼吸をして気持ちを落ち着ける。
「ええ、行ってきます」
それだけ言って、紗里は車で若菜を迎えに行くのだった。




