表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
百合の一幕 涼香と涼音の緩い日常  作者: 坂餅


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

450/929

ここねの部屋にて 4

「きゃー」


 飛んで行ったここねはベッドに着地、若菜(わかな)は再びダンゴムシのように丸まって無事だった。


 クローゼットから出てきた涼音(すずね)。案の定、クローゼットは対爆使用だった。それと同時に、ここねの部屋に物が少ない理由も理解する。


菜々美(ななみ)ちゃんが起きるまで、言ってた盗撮動画でも見よっか」


 爆発した菜々美が回復するまで、件の盗撮動画を見ようと提案したここね。


「え、なに盗撮動画って?」

「菜々美ちゃんがわたしのために歌ってくれた時の動画なんだ」

「そんなのあるんだ……」


 そう言いながら、取り出したSDカードをカメラに差し込み、モニターに映像を映す。


 早速映った映像は、菜々美達が一年生の時の映像だ。


「秋だね」

「懐かしい。この時の菜々美って今と違ったよね」

「そなんですか」


 映像は屋上から撮られている。この頃から既に屋上は立ち入り禁止のため、無断で侵入したのだろう。映されているのは音楽室。普段は吹奏楽部が使っているはずなのだが、この日は休みだったのだろう。


 音楽室では、挙動不審な菜々美とここねがいた。


 確かに若菜の言う通り、今の菜々美と動きが違う気がする。


 映像がズームされ、画面いっぱいに音楽室が映し出される。


「こんなにズームしてるのに、映像が荒くならないんだよ」


 ここねが説明をしている最中も映像は流れる。微かに音が聞こえだす。


『えっと、芹澤(せりざわ)さん。勝手に入っていいのかしら……?』

「芹澤さん呼びじゃん‼」

『うん! 今日は吹奏楽部は使わないみたいなんだあ』


 そう言った画面の中のここねが、菜々美に近づく。


『だから今日、柏木(かしわぎ)さんの歌、聞きたいなあ』

「柏木さん呼び‼」

「若菜ちゃん、この頃のわたし達知ってるでしょ?」

「知ってるけど殆ど関わり無かったもん」


 そんなやり取り中も映像は進む。


 丁度ここねが菜々美を壁に追い詰めているところだ。しかし、ここねが菜々美を壁に追い詰めると、屋上からの角度では二人の姿が見えなくなってしまう。カメラは一旦暗転、すぐに元に戻ると、撮る場所が変わっていた。


 画面の中では、菜々美が歌い始めるところだった。徐々に音声も聞えてきた。


 スピーカーから流れてくるのは、菜々美の歌声だ。


「ほんっとうに上手いよね」


 伴奏も無い、菜々美のアカペラなのだが、伴奏が無いおかげで、菜々美のどこまでも伸びる声の伸びや息継ぎの瞬間が分かる。聞いている涼音と若菜も耳が心地良いと感じる歌声を、映像の中のここねは目を閉じ、身体を揺らしながら、聴き入っている。


 そしてそのまま菜々美が歌い終える。涼音と若菜が拍手をしようとした時、画面の中のここねがこちらを見た。


 ――そこで映像は終わっていた。


 拍手をしようとしたまま固まっている涼音と若菜。たっぷり溜めた後、若菜が言う。


「……気づいてたんだ?」


 恐ろしく画質の良い映像には、最後カメラの方を見たここねの表情がハッキリクッキリ映っていた。


 そこらの恐怖映像より怖かった。


「えへへ」


 ここねはなにも答えず、満面の笑みを浮かべるのだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ツギクルバナー
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ