ここねの部屋にて 3
「わー凄い。ラグ無いですね」
「声も綺麗に聞こえるね」
ビデオカメラよりも少し大きいカメラを三脚に立て、部屋の端で涼音とここねが、付属していた薄型のモニターに映る互いの姿を見ている。
「思いのほかハッキリクッキリ映っているのね」
涼音側のモニターを見ながら菜々美が言う。
映像の遅延は無く、肉眼で見ているのと変わらない。
映像は8Kと言っていた。下手すると毛穴まで見えてしまうのではないかという程綺麗だ。
「これで私達撮られていたのね」
菜々美がみゅっとした顔でカメラを見る。
「てかなんで先輩方は盗撮なんてされてたんでしたっけ?」
すると涼音がカメラの電源を切りながら二人に聞く。
使い方はかなりシンプルだ。数は多いがサイズはそれほど大きくなく設置も簡単。これなら当日は問題無いだろう。
「私って歌が上手いでしょう?」
「あ、はい。……自分で言うんですね」
「よく言われることは自分で言った方がいいと思うのよ」
「先輩が言いそうなこと言いますね」
「話を戻すわよ」
「あ、はい」
「菜々美ちゃんがわたしのために歌ってくれた時に盗撮されていたんだよねえ」
「どうして言うのよ‼」
「実はあのデータわたし持ってるんだよ」
「どうして持っているのよ⁉」
あの時、データの処理について、ここねが任せてと言ったため任せたのだが、まさか保管しているとは思いもしなかった。
「だって……菜々美ちゃんの歌ってくれている映像が欲しいなって思ったの」
既に戻って来ていたここねが、上目遣いで菜々美に言う。
それをされてしまうと怒るに怒れない。
「それなら……っ、私に言ってほしかった……」
怒ることはできないが、少しの反撃なら許されるだろう。
菜々美はわざと悲しそうな表情になる。わざとすぎて涼音はあくびをしていたが、ここねはそれをスルーすることはできない。
「ごめんね……菜々美ちゃん」
今にも嫌われてしまうのではないか、そう思った風に菜々美に縋りつくよう胸に飛び込む。
どことなく甘い雰囲気が漂ってきて涼音は、涼香は今頃どうなっているだろうな、と考えることにした。
いつもなら止めているが、ちょっと今日は面倒だ。
涼音はクローゼットの中に隠れる、ここでタイミング良く若菜が起き上がる。
「……なんでいちゃついてるの?」
「ああああああああああ‼」
まさかの不意打ちに爆発する菜々美であった。




