車の中にて 12
しばらく車が進むと、またさっきのと同じような家が並ぶ場所へやってきた。
「金持ちゾーンだ……」
学校へは徒歩圏内だというここね、だから学校の近くにこういった高級住宅街があるというのは知っていた。しかし、あまりにも高級すぎて、若菜は近寄ったことが無かった。
「近くにこんな高級住宅街があるのに、なんであたしらの通ってる高校ってお嬢様学校じゃないんですかね……?」
「ふっ……涼音ちゃん。チャリ通の私が住んでるのはただの寂れた住宅街だよ」
若菜が流れる景色を遠い目で見ながら答える。
自転車で来られる場所に、ただの住宅街があるのだ。学校の周りを高級住宅街が占める割合はそれ程高くない。
「一軒一軒の間隔が広いから、そこまで世帯数は多くないかも」
「へえ、そうなんですね」
「もう着くわよ」
菜々美がそう言うと車の速度を落とす。
「適当に駐めても大丈夫だって」
「緊張するわ……」
他に車は無いが、ハザードランプを点けた菜々美。その時、窓から見えた景色に若菜が絶句する。
まさかここがここねの家なのか? そう思ってオロオロしていると、そのまさか、若菜でも見たことがある高級車の駐まっている駐車場に車を入れる。
「お高い車……」
「あ、ほんとですね」
「あの車お姉ちゃんが傷つけたんだよねえ」
「きっ⁉」
吐き捨てるように言ったここねだったが、若菜には傷があるという部分に反応してしまう。
「芹澤先輩、お姉さんいたんですね」
「うん、言ってなかった? まあ、言う必要ないもんね。いない者として扱ってもいいよ。あと、家に入ったら涼音ちゃんはわたしから離れないでね」
「えぇ……」
姉と仲が悪いのだろうか。いきなり雰囲気の変わったここねに、戸惑いが隠せない涼音であった。




