夏休みにて 30
迎えた土曜日、涼香は当然勉強、涼音はとりあえずケーキだけを作って出かける予定だ。
「行ってしまうのね……‼」
早速ケーキを食べながら、涼香が涙目になる。
「もう食べるんですね」
「美味しいわ」
「いつもありがとうね」
涼香の母もケーキを食べている。
「あ、はい」
これから迎えが来る予定だ。
いつも通り、菜々美の車に乗って出かける。この前、一緒に鍋料理店へ行ったメンバーだ。
もうそろそろ来るはずだ。今日はどこで話をするのかまだ分からない。菜々美が着いてからのお楽しみと言っていた。
「涼音、お土産を買ってくるのよ」
「そんな遠出しませんよ」
「来たわね。私も挨拶しに行くわ」
「え?」
涼香の母がそう言った時、涼音のスマホに連絡が入る。若菜からの、もう着く、という連絡だ。
「涼香は留守番ね。涼音ちゃん、行きましょう」
「待ちなさい、私も行くわ」
家の前でエンジン音が聞こえる。菜々美達が着いたらしい。
先に涼音が家を出ると、後から水原親子が出てくる。まさか菜々美達は涼香の母が挨拶に来るとは思っていないだろう。
涼音の後に出てきた人影に気づいて、ここねは助手席の窓を開ける。
「わっ、涼香ちゃんと涼香ちゃんのお母さん!」
「こんにちは、いつも涼香がお世話になっているわね」
車に乗り込もうとする涼香の首根っこを捕まえながら涼香の母は微笑む。そのまま運転席に向かって言う。
「菜々美ちゃんも、いつもありがとう」
「え⁉ いえ、全然!」
菜々美も涼香の母に気づいた様子だ。
「お母さん、離しなさい! 私は出かけるのよ!」
上下共に中学の体操服姿の涼香がジタバタ暴れる。
若菜は反対のドアから出て、先に涼音を入れる。
「若菜ちゃん、久しぶりね。いつもありがとう」
「いえいえ。こちらこそ、この前はありがとうございました」
若菜が回ってきて、涼香を持ち上げて車から離してから中に戻る。
「みんな涼香のためにありがとうね、これからも、遠慮せずに厳しくしてちょうだい」
「「「はーい」」」
車に入った涼音が窓を開ける。
「じゃあ行ってきます」
「行ってらっしゃい」
「お土産を買ってきなさい‼」
涼香の言葉を無視して、四人を乗せた車はゆっくりと走り出す。
やがて車が小さくなったところで――。
「さて、あなたは勉強しましょうか」
恐ろしいものを見たような表情で母を見る涼香であった。




