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百合の一幕 涼香と涼音の緩い日常  作者: 坂餅


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屋内型複合レジャー施設にて 22

 それから、特に大きな事故は起きること無くボウリングは中盤。


 中盤になると、それぞれのレーンの進み具合は違うため、隣で投げる相手も変わる。それでも、涼香(りょうか)が投げる時は協力して、夏美(なつみ)の意識を逸らしていた。


 そして――涼香の番で、他の投球者は明里(あかり)涼音(すずね)だった。


 涼音がどうやって夏美の意識をこちらに向けようかと考えていると、その肩を同じレーンを使っている凜空(りく)が叩いた。


「あたしにおっまかせ☆」

「あ、はい」


 涼音的には、あまり凜空に触れてほしくない。後ろから、今日何度目か分からない憎しみの視線を感じる。


 できるだけ触れられたくなかったため即答したが、どうやるのだろうか?


 凜空は隣のレーン、夏美のいるレーンへ向かう。そこでなにかを察した涼音は、見ないようにしようと、ボールを投げるのだった。



 凜空が目指すのは、まだ投げていない涼香や、今から投げようとしている明里と涼音を楽しそうに見ている夏美だ。


 そんな夏美の隣に滑り込んた凜空。馴れ馴れしく肩に手を回す。


「夏美ちゃーん! やっぱこの子綺麗ー」

「えっ⁉」


 今日初対面の人間に、いきなり距離を詰められたら誰だってこうなる。訳が分からず、固まってしまった夏美の頬を指でつっついている凜空。


「おい、ざけんなクソギャル」


 そんな凜空の腕を、本気で折ってやろうかと、(あや)が握る。


「おっと、綾瀬(あやせ)彩じゃーん――痛いからマジで離して」

「あんたが先に離れろ」

「分かった、分かったから‼ はいはいはい離れまーす」


 身体を夏美から遠ざけた凜空の、骨と皮しかないのではないかという細い腕を離す。


 ようやく凜空が離れると、彩は夏美を隣に座り、自分の元へ、分からない程度引き寄せる。


「いや、マジで痛かったんですけど? あたしか弱いんだから、もっと優しく触れてほしいんだけどなー」

「うるさい、それにあんたの後ろもうるさい、主に目が」

「ひっ」


 思わず夏美が声を上げてしまう。


 凜空の後ろ、彩と夏美の視線の先には、いつも通り憎しみを目に宿した真奈(まな)がいた。


 その視線は、不慣れな夏美には恐ろしいものだろう。


「あたしを傷つけたんだから仕方ないよね☆」

「うざ」


 背後でビターンっ、と学校ではお馴染みの、誰かが転んだような音が聞こえたが、夏美の意識はそちらに向いていない様子。


「急になに? 夏美になんか用でもあんの?」

「いっやー、ただ夏美ちゃん美人だから羨ましいなーって。お肌とかすべすべだったし?」

「汚ない手で触るなよ」

「はあ? ちゃんと洗ってますー! 爪もボウリングするから綺麗に切ってますー!」

「はっ、どうだか」


 そんな様子で、二人は夏美を挟んで言い合いを始める。


 彩と凜空の仲があまりよろしくないのは、三年生の中では有名だ。なのだが、涼香のこととなれば、一応協力はする。今のやり取りも、凜空が夏美の気を逸らすために仕掛けてきたことを彩は解っていた。


「あーしあーしってうるさいんだよ! いつの時代のギャルだよ!」

「はあ? あーしなんて言ってませんー! あたしって言ってますー!」

「どう聞いてもあーしって聞こえるんだけど? 大丈夫だって、あーしキャラでもあたしら別に気にしないから」


 解っているため、本気の罵りあいではないはず……。


「そっちこそ素直になれば? せっっっかく可愛い顔してるのに、もったいなーい」

「あたしは常に素直なんだけど?」

「……あの先輩?」

「なに?」

「えっと、仲良くしましょう……?」


 確かに、先程涼香の投球が終わっていた。これ以上言い合いすると、夏美に嫌われてしまうかもしれない。


「ほら、ギャルは帰った帰った。香水臭いから」

「一言多! マジありえん、ばーかばーか」


 そんなことを言いながらも、素直に帰っていく凜空である。


「先輩」


 夏美が彩に首を向ける。


「なに?」

「喧嘩はしないでくださいね」

「先に仕掛けてくるアイツが悪い」


 彩が拗ねたようにそっぽを向く。


「大丈夫だよお、喧嘩する程仲がいいって言うでしょ」


 すると、投球を終えた明里がのほほんとやってきた。ちなみに倒せたのは二ピンだけだった。


「そうなんですかね……?」


 しかしあまり納得していないのか、訝しげな夏美表情。そこに視線を合わせて明里が言う。


「彩ちゃんだけじゃなくて、凜空ちゃんも賢いの。だから、今更本気でいがみ合ったりしないんだよ。彩ちゃんは照れ隠しでキツいこと言っちゃうこともあるけど」

「明里‼」

「だって勿体無いもん」


 彩に睨みつけられるが、それをひらりと躱す明里であった。

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