屋内型複合レジャー施設にて 3
滝のようにコインが落ちてくる。
適当にやっているように見えて、その実は計算されつくしている涼音の動き。
「コインが溢れるわね」
「余裕ですね」
一つ目のカップを満タンししながら、鼻で笑う涼音。
時折勝手にカップを持って席を立とうとする涼香を押さえながらもコインを入れる手を止めない。
「いいではないの」
「ダメです」
この量のコインを持っていくと、十中八九ぶちまける。
「もう少ししたら他のメダルゲームにいきましょう。これ以上貯めてもアレですし」
「ええ、ガッポガッポするのよ」
しばらくして、涼香が三つ目のカップを、すぐ近くのコイン両替機に取りに行く。
そして、落ちてきたコインをそのカップに入れてから口を開く。
「私は思うのよ。玉手箱の中には幻覚を見せる危ない煙が入っていたのだと」
「じゃあ浦島太郎は薬物中毒になったってことですか?」
「そういうことよ。これは古代から見つかった文献からも読み解くことができるわ」
「なに言ってるんですか……」
毎度のことながら、突然訳の分からぬことを言う。
呆れながらも涼音は、コインを入れる手を止め、カップの中にコインを入れるのを手伝う。
このまま涼香にやらせるとぶちまけそうだ。
「ねえ涼音。さっき夏美と綾瀬彩がいたわよ」
彩は分かるが、夏美という名前に覚えは無い。
「前者は知らない人ですね」
と言ったが、涼香は聞いていない様子。
「呼んでくるわね!」
席を降りてどこかへ行こうとする涼香を慌てて止める。
「ダメです」
「いいではないの」
「よくないですよ!」
腕を掴んでくる涼音の手を、涼香はやんわりと下ろす。
――そして清々しい笑顔で言った。
「私は綾瀬彩と遊びたいの」
「うわあ……」
それを言われると止めることができない。
姑息な手を使う涼香を睨みつけた涼音はクソデカため息を一つ。少し魂が抜けた顔をしながら、行ってこいと手を振る。
好きなおもちゃを選んでいいと言われた子供のように、涼香は彩と夏美がいるであろう場所へと向かうのであった。




