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百合の一幕 涼香と涼音の緩い日常  作者: 坂餅


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397/929

屋内型複合レジャー施設にて 3

 滝のようにコインが落ちてくる。


 適当にやっているように見えて、その実は計算されつくしている涼音(すずね)の動き。


「コインが溢れるわね」

「余裕ですね」


 一つ目のカップを満タンししながら、鼻で笑う涼音。


 時折勝手にカップを持って席を立とうとする涼香(りょうか)を押さえながらもコインを入れる手を止めない。


「いいではないの」

「ダメです」


 この量のコインを持っていくと、十中八九ぶちまける。


「もう少ししたら他のメダルゲームにいきましょう。これ以上貯めてもアレですし」

「ええ、ガッポガッポするのよ」


 しばらくして、涼香が三つ目のカップを、すぐ近くのコイン両替機に取りに行く。


 そして、落ちてきたコインをそのカップに入れてから口を開く。


「私は思うのよ。玉手箱の中には幻覚を見せる危ない煙が入っていたのだと」

「じゃあ浦島太郎は薬物中毒になったってことですか?」

「そういうことよ。これは古代から見つかった文献からも読み解くことができるわ」

「なに言ってるんですか……」


 毎度のことながら、突然訳の分からぬことを言う。


 呆れながらも涼音は、コインを入れる手を止め、カップの中にコインを入れるのを手伝う。


 このまま涼香にやらせるとぶちまけそうだ。


「ねえ涼音。さっき夏美(なつみ)綾瀬彩(あやせあや)がいたわよ」


 彩は分かるが、夏美という名前に覚えは無い。


「前者は知らない人ですね」


 と言ったが、涼香は聞いていない様子。


「呼んでくるわね!」


 席を降りてどこかへ行こうとする涼香を慌てて止める。


「ダメです」

「いいではないの」

「よくないですよ!」


 腕を掴んでくる涼音の手を、涼香はやんわりと下ろす。


 ――そして清々しい笑顔で言った。


「私は綾瀬彩と遊びたいの」

「うわあ……」


 それを言われると止めることができない。


 姑息な手を使う涼香を睨みつけた涼音はクソデカため息を一つ。少し魂が抜けた顔をしながら、行ってこいと手を振る。


 好きなおもちゃを選んでいいと言われた子供のように、涼香は彩と夏美がいるであろう場所へと向かうのであった。

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