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檜山家の玄関にて 3
「ただいまあ……」
その日、涼音が帰ってきたのは日も沈んだ頃。涼香以外と出かけてこんな時間に帰ってきたのは、涼音の記憶の残る範囲では初めてだ。
夕食は食べてくると伝えている。あとは風呂に入って疲れを流すだけだ。
「おかえりなさい」
そんな涼音を玄関へひょっこりやって来た涼香が迎える。
服装を見るに、既に入浴した後だろう。
口を開きかけた涼香は、涼音の姿を見て一度口を閉じる。
「先にお風呂ね」
「そですね、暑いし疲れた……」
日は沈んでも、夏の夜は暑い。駅から歩いて来たのだから汗もかく。
荷物を受け取った涼香は、涼音に風呂へ向かうよう促す。
「着替えは出しておくわ。ゆっくりしてきなさい」
「はあい」
素直に言葉に甘えることにする。
身体を引きずるように浴室へ向かう、早く服を脱いで汗を流したい。
それを見届けた涼香は、一応リビングへ顔を出して叫ぶ。
「涼音がお風呂に入ったわ!」
そして二階へ、涼音の部屋に着替えを取りに行くのだった。




