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百合の一幕 涼香と涼音の緩い日常  作者: 坂餅


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本屋にて 番外編

 涼音(すずね)夏美(なつみ)が本屋を出ていった後、入り口は違うが、それと入れ替わるように本屋へやって来たのは、先程服屋にいた少女。


 名前は山口幸子(やまぐちさちこ)、街を歩いていてもなにも目立たないただの女子高生。しいて言うなら、目が小さく見えてしまう程の分厚い眼鏡をかけているのが特徴だが、これも割といる。


 要するにこれといった特徴が無い子である。


 そんな幸子は、気持ちを落ち着けるため、ホームグラウンドの本屋へとやって来た。


 本屋はいい、静かな空間を満たす本の香り、どこを見ても文字列が目に入る至極の空間。


 幸子は普段から本を読んでいる。学校でも、図書委員になりたかった程本が好きだ。ならなかった理由は、あの檜山(ひやま)涼音と水原涼香みずはらりょうかも図書委員だったからだ。


 幸子の通っている女子高の二大生徒、美しさの涼香と可愛さの涼音と同じ委員会など、幸子の一部である眼鏡が割れてしまう程の破壊力を持つ生徒がいるのだ。


 幸子が勝手にかしこまっているだけなのだが、涼香のせいで幸子の眼鏡が割れる可能性は大いにあるため、図書委員にならなかったのは賢明な判断といえる。


 幸子を含む、涼音以外の二年生達は、普段の涼香の姿を知らないため、そうやってかしこまってしまうのは仕方が無い。


 涼音に関しては、涼音自身が同級生に素っ気ないのである。一部では涼音のそういった態度を快く思わない生徒もいるのだが、そんなこと知ったことではない。文句を言われたら文句を言い返す涼音に、その一部の生徒は涼音と関わることを避けるようになったのだ。


 その場面を見たことのある幸子は、涼音に対する尊敬を抱いたと同時に、寂しさを覚えてしまった。涼音は自分達のことなどどうでもいいのだ。だから、もしかしたら涼音と話すことができる、なんてことは思わないことにする。


 この後、ビルがほぼ丸ごと本屋になっている本の砦へ行こう、などと考えながら、幸子は本屋内を練り歩くのだった。

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