鍋料理店にて 7
――結局、涼香の誕生日を祝える場所は思い浮かばず、半ばお手上げ状態となった涼音とここねと若菜の三人。
「全員参加って無理じゃありません?」
「なんで涼香のやつ、同級生全員と繋がりがあるの……」
「……一年生の時、色々あったもんねえ」
「なんかすみません……」
三人が暗い表情の中、一人追加注文した味噌串カツを食べていた菜々美。
そして口に付いたソースを拭き取ると、訳知り顔で頷く。
「やはりそういうことね」
「涼音ちゃんもそうだけど、菜々美も涼香みたいなとこあるよね?」
「出鼻をくじかないでくれるかしら?」
差し込まれた若菜の言葉に、勢いを削がれた菜々美が抗議する。
「よく私は残念美人って言われるけど! 涼香の方が残念よ!」
「誰もそんなこと言ってないじゃん」
「私は菜々美ちゃんのこと残念だと思っていないし、菜々美ちゃんが一番大好きだよ」
「ここね……」
どことなく甘い雰囲気が漂ってきたところで戻ってきてもらおう。
涼音が咳払いをすると、はたと気づいた菜々美の顔が、鍋に漬け込まれたのではないかという程赤くなる。
「あっああ……ああああ……」
「菜々美ちゃん、大丈夫? わたしの目を見て」
爆発しそうになる菜々美の頬を挟んで追い打ちをかけるここね。
菜々美の爆発を寸前で止めているのは、涼音と若菜のマグマすら瞬時に凍てつかせる冷たい目だった。
すると菜々美は爆発こそしなかったが、煙を出して動きを止める。
「あ、止まっちゃった」
「ここね、やりすぎ」
ため息をついた若菜が立ち上がり、ここねの後ろへ回る。
すると手をここねの頭へ伸ばす。
ゆっくりとその手が、みんなが撫でたくて仕方がないここねの小さな頭へ届く――はずだった。
「私のここねよ!」
バチンっ、と若菜の手を払ったのは、止まっていたはずの菜々美の手だった。
ちなみに涼音はその様子を、目立つから嫌だなあ、と思いながら見ていた。
生命活動を再開させた菜々美が、とりあえず水を飲んで一息つく。
「涼香の誕生日の話だったわよね」
「あ、そこからやってくれるんですね」
涼音の安堵の声の後、若菜がそれっぽく始める。
「そうなの、私ら三年が全員入れる場所が思いつかないの」
「やはりそういうことね」
「それ言いたいだけですよね?」
「言わしたげなよ」
目を細めた涼音だったが、次の菜々美の言葉に目を開くことになる。
「私にあてがあるわ」
「ほんとですか⁉」
まさかの言葉に三人は驚く。
「私を誰だと思っているの?」
「水原涼香被害者の会、筆頭被害者――十ポイント菜々美」
「誰が十ポイントよ!」
「よく当たるもんね」
「うぅ……ここねまで……‼」
「……先輩がすみません」




