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百合の一幕 涼香と涼音の緩い日常  作者: 坂餅


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343/930

鍋料理店にて 7

 ――結局、涼香(りょうか)の誕生日を祝える場所は思い浮かばず、半ばお手上げ状態となった涼音(すずね)とここねと若菜(わかな)の三人。


「全員参加って無理じゃありません?」

「なんで涼香のやつ、同級生全員と繋がりがあるの……」

「……一年生の時、色々あったもんねえ」

「なんかすみません……」


 三人が暗い表情の中、一人追加注文した味噌串カツを食べていた菜々美(ななみ)


 そして口に付いたソースを拭き取ると、訳知り顔で頷く。


「やはりそういうことね」

「涼音ちゃんもそうだけど、菜々美も涼香みたいなとこあるよね?」

「出鼻をくじかないでくれるかしら?」


 差し込まれた若菜の言葉に、勢いを削がれた菜々美が抗議する。


「よく私は残念美人って言われるけど! 涼香の方が残念よ!」

「誰もそんなこと言ってないじゃん」

「私は菜々美ちゃんのこと残念だと思っていないし、菜々美ちゃんが一番大好きだよ」

「ここね……」


 どことなく甘い雰囲気が漂ってきたところで戻ってきてもらおう。


 涼音が咳払いをすると、はたと気づいた菜々美の顔が、鍋に漬け込まれたのではないかという程赤くなる。


「あっああ……ああああ……」

「菜々美ちゃん、大丈夫? わたしの目を見て」


 爆発しそうになる菜々美の頬を挟んで追い打ちをかけるここね。


 菜々美の爆発を寸前で止めているのは、涼音と若菜のマグマすら瞬時に凍てつかせる冷たい目だった。


 すると菜々美は爆発こそしなかったが、煙を出して動きを止める。


「あ、止まっちゃった」

「ここね、やりすぎ」


 ため息をついた若菜が立ち上がり、ここねの後ろへ回る。


 すると手をここねの頭へ伸ばす。


 ゆっくりとその手が、みんなが撫でたくて仕方がないここねの小さな頭へ届く――はずだった。


「私のここねよ!」


 バチンっ、と若菜の手を払ったのは、止まっていたはずの菜々美の手だった。


 ちなみに涼音はその様子を、目立つから嫌だなあ、と思いながら見ていた。


 生命活動を再開させた菜々美が、とりあえず水を飲んで一息つく。


「涼香の誕生日の話だったわよね」

「あ、そこからやってくれるんですね」


 涼音の安堵の声の後、若菜がそれっぽく始める。


「そうなの、私ら三年が全員入れる場所が思いつかないの」

「やはりそういうことね」

「それ言いたいだけですよね?」

「言わしたげなよ」


 目を細めた涼音だったが、次の菜々美の言葉に目を開くことになる。


「私にあてがあるわ」

「ほんとですか⁉」


 まさかの言葉に三人は驚く。


「私を誰だと思っているの?」

水原(みずはら)涼香被害者の会、筆頭被害者――十ポイント菜々美」

「誰が十ポイントよ!」

「よく当たるもんね」

「うぅ……ここねまで……‼」

「……先輩がすみません」

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