鍋料理店にて 3
「うわあ……赤い……」
目の前に置かれた鍋を見て、涼音は汗を垂らす。
辛さ控えめと言っていたが、本当に控えめなのか? と不安になる赤さだった。
「涼音ちゃん、牛乳注文する?」
「あるんですか?」
「無いわ」
「えぇ……」
ならなぜ聞いたのか。菜々美を見ると、菜々美は半ば諦めた様子で追加注文したサラダを食べていた。
「大丈夫だよ! ちゃんと美味しいから! 菜々美ちゃんもね、ほら、あーんしてあげるから」
「うぅ……あーん……」
ぐつぐつ煮える赤い鍋と、ここねを悲壮な目で交互に見ながら葛藤する菜々美。
それをよそに、若菜は追加注文した味噌串カツを食べながら鍋を見る。
「辛そうだけどいい匂い」
ひと通り火が通ったのを確認すると、まずはここねが白菜を取り分ける。
「はい、美味しいよ」
涼音も追加注文していたトマトを食べ切って器へ入れられた白菜に挑む。
ただ辛いだけでは無いと言っていたが、どうも先日の激辛ラーメンが頭を過ぎる。
食べようと思っていたが、まずは様子を見よう。
「菜々美ちゃん、あーん」
「見せつけるねえ」
「あっ……あああああぁぁぁ……‼」
若菜の言葉で、爆発寸前まで追い詰められた菜々美の口の中に、ここねが赤く染った白菜をそっと設置する。
「はい、ゆっくり口を閉じて」
「ううあぁ、がらいぃぃぃ‼」
爆発は免れたが、汗と涙が吹き出る菜々美。
「涼音ちゃんも食べてみてね」
そう言うが菜々美の様子を見て、食べる気にならない。
「大丈夫、菜々美は辛いの苦手だから。あっ、美味しい」
「ほんとですか?」
若菜の言葉を信じていいのか、器を見ると白菜と目が合った。
大丈夫だよ……、辛くないよ……、と甘い言葉を囁かれてる気がする。
もしかするとキムチみたいに、見た目ほど辛くないのかもしれない。
「ほんとだって、あーんしてあげようか?」
「遠慮します」
ここまで言われると食べるしかない。もう湯気は立っていないのに、息を吹きかけて白菜を口に入れのだった。




