水原家にて 7
「涼音、これは……緊急事態よ……‼」
夏休みのこと、冷凍庫を覗き込んだ涼香が唇を噛みしめる。
面倒くさそうにやって来た涼音も、冷凍庫の中を見た瞬間に眉根を寄せる。
「確かに……これは緊急事態ですね」
開けっ放しも良くない。涼香は冷凍庫を閉めると涼音を見る。
互いに頷き合った二人、言葉にしなくても伝わる。
だけど不安だから言ってみる。
「アイスが無いわ」
「ですね」
同じことを考えていたようだ。
ほっと安心した涼香は髪の毛を払う。
それならば、次はどうするべきかも伝わるはずである。
「買いに行くわよ!」
「なんでですか」
「どうしてよ!」
その場にがっくりと手をついた涼香である。
「暑いじゃないですか」
だから行きたくないと、しかしそんな時、涼香のスマホがメッセージを受信する。
誰からかと、メッセージを確認する涼香。
「あら、お母さんからね」
「まさか……」
真夏の真っ昼間である。恐らく会社の休憩時間だろう。
そして、このタイミングでのメッセージは決まっている。
「買い物の指令よ」
「うわああああ!」
がっくりと手をついた涼音である。
「安心しなさい、作戦開始時刻は夕方にしたわ」
そう言う涼香の、床に置いてあるスマホを見る。
『暑いから夕方に行くわ』
『溶けないように気をつけて』
そんなメッセージのやり取りがあった。
汗びしゃになる心構えをしなければならない。
家に帰りたくなる涼音であった。




