316/929
夢の中にて 9
一歩進めば荒れ狂う海に一直線、そんな断崖に涼香が立っていた。
「涼音……止めないのね」
夏の日差しを反射する、純白のワンピースに麦わら帽子姿の涼香が儚げに微笑む。
「なんて言いました?」
岩を削る波の音と、蝉の大合唱が響き渡る。
故に涼香の声は聞こえない。涼音は耳に手を添えてよく聞こえないことを涼香にアピールする。
「止 め な い の ね‼」
どこからか取り出したメガホンを使って涼香が叫ぶ。
ようやく聞こえた涼音は、思いっきり声を出す。
「止 め て る じゃ な い で す か!」
しかしその声は涼香には聞こえておらず、首を捻った涼香が、崖から離れた涼音の下へやってくる。
そしてメガホンを逆さまに、クイズ番組みたいに耳に当てる。
涼音はそのメガホンを払い除ける。
「ああ!」
涼香の手を離れたメガホンが飛んでいき、崖から海へと落ちていく。
「なにをするのよ」
「いやこっちのセリフですよ」
頬を膨らます涼香の頬を両手で挟むのだった。




