水族館にて 11
「タカアシガニ⁉ 見なさい涼音! タカアシガニよ!」
「でっか……⁉」
二人がやってきたのは、他の水槽とは違い、暗くなっている『日本海溝』の水槽だ。
その水槽では、太陽の光が届かない、水深が二百メートルを超える世界を再現しているとのこと。
「タカアシガニ型の枕っていいと思わない?」
「なんで枕なんですか」
「そうね。タカアシガニは食べきれないわね!」
「えぇ……」
なにを言いたいのかいまいち分からないが、涼香が楽しそうでなによりだ。
「大人になったら食べるわよ!」
「あ、はい」
一方その頃。
「ごめんね菜々美ちゃん。もう大丈夫だよ」
水族館の入口で休んでいたここねは、もう大丈夫だと心配してくれている菜々美に笑顔を向ける。
「本当? 無理してない?」
だけどその言葉を鵜呑みにせず、ここねの心配をする菜々美。
「うん!」
頷くここねの笑顔を見て、ようやく安心した菜々美はここねに手を差し伸べる。
えへへと笑ったここねはその手を取り立ち上がる。
「なんだか、懐かしいね」
「え?」
唐突にそう言ったここねに、菜々美はなんのことだと一瞬考える。
「ああ、あの時ね」
すぐにいつのことかを思い出した菜々美。
微苦笑気味に、二年前のなんてことない出来事を思い出す。
「あの時は菜々美ちゃん、私の手を取ってくれなかったよね」
「だってあの時は……まだ……でも、次の日はちゃんと手を取ったわよ!」
あれは確か入学式の時だ、水原涼香無双期間(入学式含め三日間)、新入生達は涼香の姿を一目見ようと集まり、その集まりが廊下に壁を作っていた。
そしてその壁を抜けるため、壁に突っ込む菜々美とここね、小柄なここねはするすると人の間を縫っていけたが、菜々美はもみくちゃにされてズタボロになっていた。
菜々美も最初はここねへの申し訳なさに、差し出される手を遠慮したのだが、次の日も同じことになり、ここねの言葉に甘えて手を取った。
「えへへ」
慌てる菜々美を見て嬉しそうなここね。
「ほら、行くわよ」
そう言って先に進もうとした、耳を赤くした菜々美に追い打ちをかけるように、ここねは菜々美の腕に抱きつく。
「あっあああ……ああぁぁぁ!」
菜々美が爆発しそうになるとすぐに離れるここねであった。




