涼香の部屋にて 21
もう七月も残り数日、現在涼香の部屋で寝泊まりしている涼音は、朝からなにやら人が動く気配を感じてその重たい瞼を持ち上げた。
「うるさいですね……」
「私の部屋よ? もしかして反抗期……⁉」
「そでしたね。で? なにやってるんですか、こんな時間から」
身体を伸ばしながら、そばにやって来た涼香に問いかける。
「小学生の頃涼音から貰った手紙を持ってきたわ!」
思い出されるのは小学生の記憶――になるはずは無く。
「なんでそんな物持ってるんですか⁉」
「そんな物、ではないわ! これは私の数多くある宝物のひとつよ!」
「宝物はひとつで良くないですか⁉」
「もちろん一番は涼音よ!」
「じゃあ捨ててくださいよ!」
そう言ってまだ目覚めたばかりの身体を精一杯動かして、涼香の持つ手紙を奪おうとする涼音。
「これは涼音から貰った手紙よ! 一番大切な涼音に貰った手紙なのよ! 涼音ボーナスが付くのよ!」
「知りませんよ! 早く! 捨てて! ください!」
大きく手を伸ばす涼香に必死に食らいつく涼音。寝起きの身体では涼香から奪うことすらできない。
「そんなことより、寝起きでしょう? 水を飲みなさい」
「じゃあ捨ててくださいよ!」
なおも奪おうとする涼音であったが、やがて膝に手をついてしまう。
それを見た涼香が涼音に言う。
「私が貰った物よ、捨てるか捨てないかは私が決めることよ」
確かに涼香の言う通りだ。いくら涼音が嫌がろうが、手紙は涼香の大切な物だ。
それを持ち主では無い、送った側の涼音でもそれにとやかく言うのは酷い話だ。
冷静になった涼音もそのことを理解した様子だった。
「……じゃあせめて存在をチラつかせないでください」
「確かにそうね」
机の中にその手紙をしまった涼香。
隙間から他にも色々見えたが、涼音は見ないことにするのだった。




