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夏休みの三年生の教室にて 2
教え教えられを繰り返していると時間はあっという間に過ぎてしまう。
「ありがとう綾瀬彩。とりあえず合格してくるわ」
時間のため、自分のクラスに戻ろうとリュックを背負った涼香が言う。
まるで私が戻ってくるまで待っていなさい、とでも言いたげな涼香に彩は返す。
「誰が待つか。あたしは帰る」
「そういう意味ではないわよ」
「………………」
どうやら違ったようだ。
「夏美を迎えにいた方がいいのではないかしら?」
「そうする。檜山回収しといて」
「そうね。連絡を入れておくわ」
「じゃあさっさと合格してこい。そしてしばらく学校に来るな」
「ええ、楽しかったわ」
しっしと手を振る彩に手を振り返しながら、涼香は教室を後にするのだった。
そして涼香が去った教室で――。
「本っ当に、羨ましいわ」
口癖のように吐き出してしまうその言葉を自覚して、彩は夏美を探すために席を立つのだった。




