夏休みの学校にて 3
「どうして私は小学生の算数を解いているのかしら?」
涼香は彩が用意していた勉強用の問題集を解きながらボヤいていた。
「数学の躓きは結構昔にあんの」
涼香の解いた問題の答え合わせをしながら彩が返す。
「そういうものなのね」
彩なりの考えがあるらしい。勉強に関しては教えて貰っている側なので素直に納得する涼香である。
「四則計算はできてるか……」
「四則? ちょっとよく分からないわ」
「足し算引き算掛け算割り算のこと」
「分かりやすく言いなさいよ」
「十分分かりやすいんだけどさあ」
現在時刻は九時を過ぎた頃。
テスト開始時刻十一時まではまだ時間がある。
「それで、夏休みなのにわざわざ学校に来るなんて、一体なにを考えているの?」
小学生レベルの問題を解きながら涼香が聞く。
「うっざ」
「素直になりなさい。ここには私達しかいないわよ」
涼香のくせに、バカなはずなのに、どうしてコイツに心を見透かされるのか。
分数問題の間違えを指摘しながら、彩は涼香を睨みつける。
「あんたら……、あんたと檜山は、そのなに……、いつもなにしてんの?」
聞いた質問の答えに繋がるのだろう。目を泳がせながらも口を動かす彩。
「涼音の可愛さを聞きたいの? 仕方ないわね――」
「違う。やめろ」
「具体的に言いなさい」
涼香にそう言われて彩はさらに顔を顰める。
「……家、近いんだって?」
耳を赤くした彩が、ゆっくりと言葉を発する。
「斜向かいね」
「そう……じゃあ、昔から一緒なの?」
涼香の顔を見ず、窓の外に視線をやったまま彩が聞く。
「そうね、校区の関係で小学校は別だったけど。放課後や休日はいつも一緒にいた気がするわね」
「そう……」
「ええ」
「………………」
「………………」
「………………………………」
「帯分数ってなにかしら?」
「……はあ」
これ以上聞き出すのはもう少し時間がかかりそうだ。
だから涼香は、本来すべきことに戻るのだった。




