補習にて 2
今は九時三十分を過ぎた頃、十一時のテストまで、彩から勉強を見てもらおうとしていた涼香と理子。
「さあ始まるわよ、綾瀬彩による補習対策講座が……‼」
「この対策講座、負けるわけにはいかない‼」
「そのテンションでやんの?」
「冗談よ、早く始めなさい」
「ほら、わたし達が聞いてあげるから」
「やっぱあたし戻るわ」
学校の冷房の設定では、到底太刀打ちできない程の冷たい対応をする彩。
涼香と理子は教室を出ていこうとする彩を慌てて止めにかかる。
「私達の仲ではないの! まだ見限るのは早いと思わない?」
私達の仲と言うが、今まで涼香と関わって迷惑をかけられたことしかない彩は反射で答える。
「思わない」
恐ろしいものを見たような表情の涼香が崩れ落ちる。
「ほらほら、わたし達を見捨てたらアレだよ? えっと、アレ!」
見捨てたらアレのアレとは一体なんなのか。
「なら真面目にしろ」
「あ、はい」
肩を縮こませる理子。
崩れ落ちる涼香と、縮こまっている理子を見た彩はクソでかため息。
「ふざけないんだったら教えたげるけど、やんの? やんないの?」
生まれたての小鹿のように立ち上がる涼香と、脱皮するみたいの身体を伸ばす理子。
そろそろふざけるのを止めないと勉強をする時間が無い。
勉強をする時間が無いと小テストに合格できない。
すると補習が終わらず、夏休み期間中ずっと学校へ来ることになる。
だから、そろそろ真面目にやるかと、涼香と理子は首をボキボキ鳴らすしぐさを取る。
「え、うざ……」
やっぱりなにも言わずに見捨てた方が良かったと思った彩だったがもう遅い。
「第二ラウンドを始めましょう」
「そう、こっからは真面目に勉強」
二人は顔を見合わせ頷く。
「「綾瀬彩!」」
またボケるんじゃないのか、僅かな予感を感じた彩は、少し警戒しながら反応する。
「……なに?」
「「教えてください‼」」
真面目に受けてくれるのであれば、彩にとっても勉強になるし全然かまわない。だけど普通に頷くのが癪だった彩は、仕方ねえな、といった雰囲気を醸し出しながら言う。
「うん、じゃあ座って」
そしてその場に座る涼香と理子。
「席に着けっつってんだよぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ‼」
彩の叫びが、夏休みの学校に響き渡るのだった。




