涼音の部屋にて 14
冷房の効いた部屋で、涼香は涼音を後ろなら抱きしめながら言う。
「エアコンは良いわね、涼音とくっついても暑くないわ」
「気分的に暑いんで離れてくださーい」
涼音は後頭部でぐりぐりと、涼香の顎を攻撃する。
「いいではないの。汗もかいていないのだし」
「だからー、気分的に暑いって言ってるじゃないですかー」
さっきから涼音は涼香から離れるために立とうとしているのだが、思いのほか強い力で涼香に抱きしめられていて動くことができない。
「ねえ涼音」
「……」
「無視しないで」
「なんですか?」
「呼んだだけよ」
「………………」
涼音の顔は見えないが、部屋の温度が僅かに下がった気がする。
「……いつまでこうしているつもりですか?」
「ずっと、かしら」
「トイレに行きたいんで離してください」
「トイレに行きたいと言えば私が離すと思っているのかしら? 全く……私の方がトイレに行きたいのよ」
その瞬間緊張が走る。トイレに行きたい涼音とトイレに行きたい涼香。しかしトイレは一つ。
先に動こうとしたのは涼音だ。しかし、涼香に抱きしめられている状態では、立ち上がることは困難だった。
涼香は涼音を抑えながら立ち上がる。
「私の勝ちね!」
そう言って部屋から出ていこうとして――ドアにぶつかった。
「えぇ……」
トイレに行きたいという気持ちが急かせすぎて、ドアを開けることを忘れていたようだ。
「痛い……」
「あっ。先にトイレ行きますね」
蹲る涼香を避けて、涼音はトイレに行くのだった。




