ベッドの上にて
どれだけ規則正しい生活を送っていても、夏休みのような長期休みに入れば、生活リズムは崩れていくものだ。
檜山涼音もその一人。いつもなら六時辺りには起きているに、夏休みの今は八時を回っても夢の中だ。
茶色いに染められた長い髪を冷感シーツに広げ、薄い掛け布団で顎まで隠している。
クリっとした大きな目は、今は閉じられて見ることは叶わないが、それでも顔のパーツの一つ一つが整っていて、可愛い少女だということが窺える。
「夏休みはいいわね……眠っている涼音を見ることができるわ」
そしてその隣で涼音の写真を撮っているのは、いつもなら遅刻ギリギリまで眠っているのに、長期休みの時だけ涼音より早起きすることができる少女の水原涼香である。
寝起きのはずなのだが、涼香の髪は、まるで櫛で梳かしたかのように艶やかで、清流のように繊細で美しい。
「やっぱり涼音の可愛さは全世界に広まるべきなのよ……」
ブツブツ言いながら涼香はひたすらにシャッターを切る。カメラロールが涼音に埋めつくされ、そろそろスマホの容量が危ない。
「ん……」
シャッター音から少しでも離れようとしてか、涼音は身を捩り、涼香から離れようとする。
しかし一人用のベッドに二人でいるため、そして涼音は壁側で寝ていたため、離れようとしても離れることができない。
「ぅ……るさぁぃ……」
涼音は目を閉じたまま、音の発信源を探すために手を彷徨わせる。
「ちょっと涼音、邪魔をしないで」
邪魔をしているのは涼香の方だ。
涼音の手から逃れようと身体を反らす涼香。
そして涼香が寝ていたのは、涼音の反対側、壁は無い。
つまり――ドタンっと鈍い音が鳴り、涼香の呻き声がそれに続く。
自業自得である。
静かな時間を取り戻した涼音は掛け布団を被り、再び夢の世界へと落ちていくのであった。




