夏休みにて 9
いくら外が暑いからと言って、家の中に引きこもっていると、ふとした瞬間に夏の暑さが恋しくなってしまうことがある。
「夏の暑さを感じたいわね」
「え、嫌ですよ」
恋しくなるのは涼香だけだったようだが。
「少しスーパーにいかない? ほら、たまには豪華な昼食もいいと思うのよ」
近所のスーパーになら、暑くなってもすぐに避難できるであろう。涼香会心の提案だった。
「却下」
しかし当たらなければどうということはない。涼音は却下した。
「意地悪ね」
言いながら涼香は肩をすくめる。
「だって暑いんですよ? 嫌に決まってます」
「なら私だけで行くわ」
「それはもっと嫌です」
「あら、お姉ちゃんを心配してくれてるの?」
「そのノリまだ続いてたんですね……」
「さあどうなの? 心配してくれてるの? してるわよね? ね‼」
強引に頷かせようと、迫り来る涼香を押し返しながら涼音は首を振る。
「違いますし離れてください!」
「なら心配していると言いなさい」
「無理やり言わせて満足するんですか!」
そういうと涼香は動きをピタリと止める。
涼音から離れてしばし思考。
涼香の真っ白な脳内に凄まじい勢いで数式が書き表されていく。
やがて導き出された答え、それは――。
「確かに!」
涼音の言う通りである。無理やり心配していると言わせたところで、本当に心配している訳ではない。
「でも外に出てくるわね!」
しかし、だからといって諦める涼香ではない。夏の暑さを感じたいという気持ちは誰にも負けない。
「もう勝手にしてくださいよ……」
なにを言っても外に出るという気持ちは揺るがないらしい。
諦めた涼音は、外へ出る準備を始めるのだった。




