夏休みにて 8
夏休みもまだ序盤、しかし七月の終わりが近づくと、夏休みは残り少ないと思ってしまう。
(七月中に宿題終わらせたいなあ……)
涼音は、『夏休みの宿題一覧表』というプリントの、終わった宿題に印を付けていた。
「あら、もうそんなに終わっているの? 偉いわね」
後ろから覗き込んできた涼香が言った。
「まあ先輩に比べれば偉いですね」
「それはどうかしら」
「……なにがですか?」
涼音の怪訝な眼差しを受けても涼香は余裕の態度を崩さない。
「言ってみただけよ」
「えぇ……」
そんなことを言っている暇があるのなら宿題を進めて欲しいと思った涼音だったが、どれだけ言っても涼香は宿題をしない。してはいるのだが、計画的に進めているとは言い難い。
それでもなんとかなるのだし、自業自得なので涼音はなにも言わない――でおこうと思ったのだが、もしかすると宿題を早めにやってくれるかもしれない。
「コツコツ宿題しましょうよ」
「そうねぇ……妹が頑張っているのに、お姉ちゃんが頑張らない訳にはいかないわね」
珍しくやる気になってくれた涼香。
「誰が妹ですか、今は同い年ですよ」
しかし涼音はそんなことよりもツッコミを優先した。宿題をさせるということを忘れた訳では無い。
「年子の姉妹でもそういう時はあるわよ」
「いや、そもそも血の繋がりありませんし。てか早く宿題やりましょうよ」
「それはどうかしら。もしかすると実は血の繋がりがあるかもしれないわよ」
「はいはい。早く宿題取りに戻って――あー……、あたしが取りに行きますね」
この間、涼香に宿題を取りに帰らせたのだが、あまりの暑さに結局取りに戻れなかったのだった。
それを思い出した涼音は、自分が取りに行こうと言い出すが――。
「ダメよ! 外に出ると溶けてしまうわ!」
立ち上がろうとする涼音を慌てて止める涼香。
「お姉ちゃんが取りに戻るから、涼音は家で待ってなさい!」
「この前それで無理だったんですよね?」
なに言ってるんですか、と呆れた目を向ける涼音であるが、涼香は胸に手を当て、安心しろと微笑を湛える。
「大丈夫よ、お姉ちゃんは溶けないから」
「脳みそ溶けてるんですか?」
「行ってくるわ!」
「あ、はい」
宿題を取りに戻った涼香を見送る涼音であった。




