夏休みにて 5
夏休みのこと。
涼香は学校帰りに持ってきた、駅に置いてある広報誌を涼音と二人で読んでいた。
特集はかき氷やパフェなど、どれも暑い夏にぴったりな涼しくなれるスイーツばかり。家庭ではなかなか作ることは叶わない、ふわふわ氷の果物が盛り沢山かき氷の写真を見て、涼音は感嘆のため息を漏らす。
「わあ、美味しそう」
穴が開くほどその写真を見つめている涼音のために、涼香は一肌脱ごうとして提案してみる。
「行ってみる?」
「行きたくないです」
「えぇ……」
即答だった。
涼音が食べたいと言うのなら、暑い中でも頑張って連れて行ってあげようと思っていたのだが、なんなら頭を下げて菜々美に車を出してもらおうと思っていたのに。
「だって暑いじゃないですか?」
駅に置いている広報誌のため、掲載されている店は駅からそこそこ近いのだが、その駅に行くまでに汗をかいてしまう。
「それはそうだけど……。菜々美に車を出してもらうことだってできるわよ?」
「でもこういう店って駐車場狭かったり無かったりしますよ」
「そう言われると、そうねえ……。まあ涼音が行きたくないのなら無理して行こうとは思わないわ」
涼香も特に行きたいというわけでもない。
そのため、この話はここで終わりである。
――一方その頃。
「菜々美ちゃん。あーん」
「ぁぁぁっぁぁぁぁ‼」
こじんまりとした古民家のような落ち着いた店内に、菜々美とここねはいた。
夏休み前、菜々美が学校に来る途中、駅から持って来た広報誌を二人で見ていた時、それに掲載されている店にここねが行きたいと言ったのだ。
駐車場が狭くても、ここねのためなら頑張れたのだ。
受験生の夏休みだが、菜々美達の通っている高校はさほど進学校でもないため、夏休み全てを勉強に費やしている生徒は少ない。
一応菜々美もここねも勉強はしているが、息抜きや勉強会と称して、割と頻繫に会っていた。
白桃の乗ったふわふわなかき氷を掬って菜々美の口元に差し出すここねは、夏の太陽のようにまぶしい笑顔をしていた。
真っ赤になった菜々美の熱で、口元に差し出されたかき氷の氷が溶けているような気がするのだが、菜々美は当然それに気が付かない。
「わっ、すごい熱」
スプーンに乗っている白桃を自分で食べたここねは、備え付けの紙ナプキンで濡れたテーブルを拭くのだった。




